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城崎のまちをそぞろ歩くと目に留まる、愛らしい麦わら細工のお土産物。製作実演が見られる「かみや民芸店」を訪れると、麦わら細工職人、神谷勝さんが桐箱の仕上げ作業の真っただ中でした。吹く、延ばす、切る、貼る。丁寧な手仕事は、使い込まれた手製の七つ道具に伝わり、麦わらに息が吹き込まれていきます。幼いころから麦わらを間近に見て育った神谷さん。麦わら細工職人の父の手に掛かると麦わらが魔法のように姿を変えていく。その様子が、鮮明な記憶として残っているそうです。「まさに、一本の麦わらに魅せられてこの世界に入ったんです」。職人の顔つきが緩みました。確かに、麦わらの想像を超えた表現の幅には眼を見張るばかり。表面のつやめきが醸し出す金属的な質感と筋模様が残す植物的な味わい。貼る角度の違いで表す表情や動き。そこに技巧が加わると、表現方法は無限です。人物・動植物を専門に施す〝模様師〟神谷さんにとって最も難しいのは「人物の表情」。目を入れるのに2時間対たいじ峙しても手が進まないことも。職人の真剣勝負の果てに、作品の美は完成を迎えます。約三百年前、城崎の地でお土産物として誕生した麦わら細工。明治期には、多くの職人が切せっさたくま磋琢磨して積み上げてきた技術力が、麦わら細工を芸術の域にまで高めました。しかし今日までの道のりは決して順風満帆ではありません。大正14(1925)年に城崎を襲った北但大震災で多数の作品や文献が焼失し、麦わら細工の進化の過程は長い間謎に包まれたままでした。「その謎を解く鍵はドイツにありました」と神谷さんが見せてくれたある写真集。ドイツ人医師シーボルトが欧州に持ち帰った125点の麦わら細工を現地で検証し、7年前に復刻した作品が並んでいました。江戸・明治の職人たちの作品に現代の職人が挑むという時空を超えた共同製作は、麦わら細工の歴史に新たな一ページを刻みました。そして、先人たちの仕事に触れ、より強くなった思いがあると神谷郷土で育まれ、受け継がれてきた伝統的工芸品をご紹介します。技は語る?城崎麦わら細工三百年の時を刻む麦わらに魅せられて26