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未来を担う子どもたちに笑顔の花を咲かせよう全校児童400人で大きな桜を描く体育館に入り「こんにちは」と礼儀正しくあいさつをしながらも、子どもたちは、幅8メートルを超える巨大な白い紙を前に、これから何をするんだろうと不思議そうな顔をしていました。そんな宮城県気仙沼市立面瀬小学校の全校児童に満面の笑みを向けるのは、神戸市東灘区で「アトリエ太陽の子」を主宰する中嶋洋子さんです。「今日は学年ごとに全員で大きな大きな桜の木を描こうと思います。桜は、厳しい寒い冬をじっと耐え、春に美しいピンクの花を咲かせます。ピンク色は、幸せを呼ぶ色ですよ」という中嶋さんの言葉の後、400人近い子どもたちの初の共同制作が始まりました。最初のうちは何をしていいのか分からず、クレヨンを持ったまま後ろの方に控えている子や、先生の方をうかがってばかりの子もいましたが、次第に誰もがめり込むように白い画用紙に色を付けていきました。か細かった色の線が、みるみる太く力強くなっていきます。桜の幹に陰影を付けるという難しい段階に入ると、1、2年生の手伝いをしていた6年生が頼れるお兄さん、お姉さんぶりを発揮、見事なお手本を示していました。子どもらしさを取り戻すまで最後の仕上げとなるピンクの花は、絵の具を塗り付けた両方の手のひらを画用紙に直接、思い切りぺったん。子どもたちは裸足になって、競うように汚れていきます。そんな様子に、同校の教頭、熊谷俊一さんは「震災からこれまで、子どもたちは本当に“立派”でした。こんな時なので、いい子でなくちゃいけないと抑えていたのでしょうね。それがようやく、子どもらしく騒いだり、おどけたり、失敗したりする様子が戻ってきました」と目を細めます。完成した6本の桜の木をいとおしそうに眺めながら、中嶋さんは言います。「阪神・淡路大震災では私も教え子を亡くし、涙が枯れるまで泣き尽くしました。震災直後には食べ物や着るものが必要ですが、しばらくして落ち着いてくると心が寂しくなってくる。そういう時に寄り添うのが、心を込めた絵や音楽などの芸術だと思います」。中嶋さんが今、一番案じているのは、震災が風化して人々が被災地を忘れてしまうこと。「今日のご縁を一度きりにせず、呼んでいただけるなら、これから先、何度でも来させてもらいます」と真剣なまなざしで語りました。全校児童で描いた桜の大木は、今年11月の面瀬小学校30周年記念式典を華やかに彩る予定です。全校児童の3割が被災した面瀬小。子どもらしい笑い声が戻るには、しばらく時間が必要だったそうです。中嶋さんの説明に、みんな私語もなく耳を傾けます。中嶋さん(左)が代表を務める「アトリエ太陽の子」は、平成24年度の「ぼうさい甲子園」はばタン賞を受賞。手のひらに絵の具を塗って大はしゃぎ。1年生が描いた力強く枝を張る桜。21