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「王妃のように気高い雁がん皮ぴ」。民芸運動を興した故・柳宗悦が、製紙原料の中でそう評したガンピ製の和紙。繊維が短く、手に吸い付くようなきめの細かさと光沢のある紙肌が特長です。かすれにくいことからかな書きに適し、平安時代には高級紙として重宝されたほど。そのガンピ紙の代表格が西宮市名塩に伝わる名塩紙です。墨の乗りや絵の具の発色の良さなどから、熱烈に愛好する画家や書家が後を絶ちません。また、壁紙やふすま紙として重要文化財の修復にも唯一無二の存在感を示します。納めた先は、二条城や沼津の御用邸、桂離宮など名だたる建造物ばかり。「先日はニューヨークの美術館からも視察がありました」。そう語るのは、まさにそれらの名塩紙をすいた匠、谷野武信さんです。なぜ名塩紙なのか。その答えへの鍵、と谷野さんが見せてくれたのが集落周辺で採掘される4色の岩石。それを粉砕した泥状のものを紙にすき入れることで〝変色しない、虫やネズミに強い、熱に強い〟との誉れ高い名塩紙となります。その極みが谷野家に残る210年前の名塩紙。染み一つない気品あふれる様が、和紙の里で知恵と技をつないできた先人の姿と重なりました。華やかな表舞台を支える名塩紙ですが、舞台裏にあるのは地道で真しんし摯なものづくりの世界。午前3時、冬場はいてつくような水の中で作業開始。泥を混ぜ込んだ原料は、その重みから独自のすき方と労力を要します。泥の調合やのりの加減、水を切る頃合い―季節や天候を計算に入れた上での見極めは、培った経験だけが頼り。「だから紙すきは難しい。死ぬまで稽古や」と言い切る谷野さん。平成14(2002)年に人間国宝となってからも、尽きない情熱がその目に宿ります。〝ネクタイを締めて会社勤め〟に憧れた青年が、父・徳太郎さんの隣で紙をすき始めて60年。その間、「名塩千軒」と呼ばれた和紙の里も、今や2軒だけとなりました。それでも未来に伝えた郷土の自然と暮らしの中で育まれ、受け継がれてきた兵庫県の伝統的工芸品をご紹介します。技は語る?名塩紙国の宝を生かす永遠の美をすいて26