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更新日:2017年3月27日

北摂SATOYAMA国際セミナーの開催結果について

国内外への北摂里山の魅力発信の強化と、持続的な保全に向けた取組みや現代社会における新たな里山の利活用を進めるため、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)等と連携し、国内外の専門家、活動家を招聘した「北摂SATOYAMA国際セミナー」を平成28年11月12日(土曜日)に開催しました。
また、IPSI※運営委員会が北摂SATOYAMA国際セミナーにあわせて開催されたことから、同運営委員を対象に日本一の里山と言われている北摂里山の魅力や北摂里山博物館構想を国内外に強く発信するため、11月10日(木曜日)と11日(金曜日)に、北摂里山(川西市満願寺及び黒川地区)を案内しました。
※SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(International Partnership for the SATOYAMA Initiative)の略称

             zenntai       panerudisu

北摂SATOYAMA国際セミナー

テーマ

北摂における人と自然の共生~その底辺にある価値観と将来への展望~

開催日時

平成28年11月12日(土曜日)13時から17時30分
(12時40分からウェルカムパフォーマンス)

開催場所

宝塚ホテル(兵庫県宝塚市梅野町1-46)

ウェルカムパフォーマンス

セミナー開会前には、元宝塚歌劇団によるウェルカムパフォーマンスが、セミナー会場において開催され、歌とダンスにより、セミナー開会前のひとときに華を添えてくれた。

開会あいさつ

村上元伸(阪神北県民局長)

要旨
兵庫県は、北は日本海から南は淡路島、紀伊水道を挟んで太平洋につながる広大な県土を有している。日本海側の但馬地方では、自然界から絶滅したコウノトリの野生復帰プロジェクトの成功や、ユネスコの世界ジオパークネットワークに加盟した山陰海岸ジオパークの保全と活用。また、播州平野、姫路平野を中心に兵庫県内にはたくさんのため池がある。昔から稲作文化とともに、水を管理しながら、生活の中で活用してきた長い歴史がある。手つかずの自然ではないが、人里近く、また、人の生活とともに大切に守られてきた豊かな自然が広がっている。
この北摂地域、阪神北地域には、古くからの里山文化(山を生かしながらの長い暮らし)が息づいている。しかも大都市にきわめて近いこのエリアには、豊かな自然が守られ続けているという強みがある。
もともと里山は、日本人の暮らしの中で、古くは薪や炭といった燃料や食糧の調達という利用の中で大切にされてきたが、現在ではライフスタイルも変わってきており、新しい活用方策が見出されるべきとの課題がある。その中でも、大都市に近く、多くの人々が近くに住んでいる北摂地域において、新しい里山の生かし方、つき合い方を提案していく、また実践していく必要があるという考えのもと、北摂里山博物館構想を策定し、皆さんのお力をいただきながら推進している。
今回、この北摂SATOYAMA国際セミナーは3回目の開催となるが、こうした機会を契機に北摂地域の里山保全の取り組み、市民の皆様のそれぞれのご活躍の様子が世界各地に発信されることを期待する。

来賓あいさつ

竹本和彦(国連大学サスティナビリティ高等研究所所長)

要旨
北摂SATOYAMA国際セミナーにおいては、様々な国内外からの参加者からの事例報告がある。こういった事例報告を踏まえて、積極的な意見交換が図られることを期待している。
国連大学は、日本の環境省と連携して、2010年からSATOYAMAイニシアティブというプロジェクトを展開しており、愛知県名古屋市で開催された2010年の生物多様性第10回締約国会議において、SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップが発足した。本日は、この国際パートナーシップの運営委員会開催とあわせてこのセミナーが開催されるということを大変うれしく思う。また、私どもが展開している様々なプロジェクトを通して、本日のテーマである人と自然との調和について議論がなされること歓迎している。
このセミナーを通して、人と環境の調和、そして生物多様性の積極的な持続可能な利用について、この北摂の地から世界へ発信するということになればありがたい。

開催趣旨説明

樋口進(阪神北県民局県民交流室環境参事)

要旨
里山とは、日常生活に欠かせない煮炊きや暖をとるための燃料や、肥料のための落ち葉をとるための日常生活に必要なものを集める場だった。
ところが、1960年代の燃料革命以降、里山は燃料生産としての場を失い、放置や開発による喪失が発生した。これにより生物多様性の低下や伝統文化の消失、景観の変化が見られるようになってきた。
北摂地域の里山は、日本一の里山と言われるように、今でも伝統的な茶道文化で使われる菊炭(クヌギからつくる非常に芸術作品的な炭)の生産など、伝統的な手法で里山が維持されていること、放置された里山の再生と活用に向けて市民活動が非常に活発なこと、多様性夏緑高林方式(兵庫方式)という新たな里山の管理方法を打ち出しているなど、未だに人と自然の共生が息づいている。阪神北県民局では、この市民レベルの多様な活動を活性化し、里山に埋もれる新たな資源の有効活用として、北摂地域全体をエコミュージアムとして整備し、現代社会における里山の新たな価値を見出し、里山の持続的な保全と地域の活性化につなげることを目的に、2011年9月に北摂里山博物館構想を策定した。そのコンセプトを「ひと、さと、ずっと」という文字であらわしている。人が里に、里が人に恵みをということで、恵みを与え合うことにより、持続的な社会の形成を目指すものである。
この構想を実現するために、ウエブサイト、ポスター、ガイドブックの作成、フォーラム等の実施、看板・ビジターセンターの整備及び、ツーリズム振興としての地域連携や人材育成、里山資源を利用した子供からシニア世代まで対応した環境学習、一般市民の活動を支援するための助成金等の事業を実施している。
このような活動を行うための中核組織として、県民局、周辺の市町、企業、活動団体、一般市民、大学等の研究機関等が連携した北摂里山博物館運営協議会を2012年3月に設立した。また、北摂の里山から世界の里山を目指し、2015年3月に北摂里山博物館運営協議会としてSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップへ参画した。
現代社会における里山の新たな価値を見出すためには、様々な立場のステークホルダーの方に里山に関心を持ってもらい、里山への関与を促進する環境づくりが必要である。そのためには、人と自然の共生という場面での根底にある価値観への関心、理解が必要であり、「北摂における人と自然の共生~その底辺にある価値観と将来への展望~」が本日のテーマとなっている。
日本の里山というものは、単なる生産の場としての価値だけではなくて、環境、歴史、文化といった様々な価値を併せ持っている重要な存在であったが、燃料革命以降、里山の生産の場としての価値は失われ、放置されるようになった。
そのため、「里山に関連する伝統文化の消失」、「景観の変化」、「生物多様性の低下」、といった様々な問題が発生するようになっている。
ところが、北摂地域の状況というのは、他地域の状況とは大きく異なり、「伝統的な里山が今も伝統的な方法で維持されている」、「放置された里山の再生と活用に向けた市民や民間企業による活動が活発」、「里山資源を生かした地域づくりが地域全体で進められている」といった特徴がある。
菊炭の生産のような伝統的な方法だけではなく、市民や企業が新たな方法で里山を整備活用していることが行なわれているのが、北摂地域の大きな特徴。さらに、里山資源を生かして、北摂地域全体をエコミュージアムとして整備していこうとする「北摂里山博物館構想」といった地域づくりが進められている。
一方、国際社会では2010年に開催されたCOP10で、「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」という、日本主導の国際事業がスタートし、世界各地で、里山のような二次的自然の保全再生に向けた活動が行われるようになった。
阪神北県民局と北摂里山博物館運営協議会は、北摂里山博物館構想の新たな取り組みとして、この国際パートナーシップに正式に参加し、北摂の里山を世界の里山に発展させていくとの目標を立てた。
しかし、このような大きな目標を達成するためには、市民の方をはじめとする多くの方々との連携協働が必要である。そこで、次の段階へ進むための第一歩ということで、本シンポジウムを開催する次第である。

趣旨説明(PDF:4,369KB)

基調講演

講師:中瀬勲(県立人と自然の博物館館長、兵庫県立大学名誉教授)
演題:日本の伝統的な自然観と持続可能な社会~Nature and Sustainable Society: Traditional Philosophy in Japan~

要旨
「人と自然の共生」を考えるための一つの前提として、万葉の自然観、古今(※)の自然観、江戸の自然観、近代の自然観の4つの自然観について我々の認識を確認したい。((※)平安時代前期(10世紀初頭)、古今和歌集ができた頃。)
万葉の自然観は神秘的自然観、自然は恐るべき力を持つ神秘的なものである。古今以降の自然観は見るから思う情緒的自然観で、日本の自然観の大事なところ。短期的にあらわれる美、とどめることは不可能なもの。紅葉は散るから良い、これが日本の思考の基本であり、人生のはかなさ、無情観を表している。日本の美意識は秋、いかに華やかなところがあっても来る枯れの意識、冬の美である。
この一連の自然の流れが、毎年、繰り返されているが、それに私たちは美意識を感じ取っている。私たちのDNAの中に風景観、美意識が宿っているということを言いたい。万葉の神秘的な自然観の話と情緒的な自然観は別々ではなくて、私たちの頭の中では美意識として内在している。
江戸時代になると、水の風景観というのが入ってくる。明治時代になると、森林の風景観が入ってきて、六甲山開発、伊豆箱根開発が始まったが、その当時も自然順応型の風景観もあった。以上が共通認識を得るための前提で、私たち日本人の風景観、価値観についての考察である。
市民生活やなりわいの風景にスポットライトが当たる時代になり、里山が議論されるようになった。今、時代の超転換期に来ている。
里山に加えて里の川、里の海を入れながら生物多様性、共生について話をしたい。私の里山の定義は、人間活動、生活、なりわいと里山との相互依存関係で成立して、維持管理されている山林地域のことと考えている。私たちの生活、なりわいと関係を持っていることが必要である。しかし、これらは絶滅、変容の時期にある。
兵庫県川西市・猪名川町の地域では里山として管理され、なりわいがなされている。日本の里山は、ボランティアなくしては維持できない。ここでもボランティアが多く活躍しており、なりわいがなされている。これが日本の従来型の伝統である。
日本独特の鎮守の森は、ミニ里山、生物多様性確保、共生の場である。先代の岩槻館長は、鎮守の森はやおよろずの神、神を鍾愛する空間であると言われている。まさに、ご先祖はたくさんの自然を破壊したが、森を残して、そこにDNAをちゃんと残すような、そういう工夫をして自然を維持しようとしてきた。それが鎮守の森である。
共生の価値観について、「もったいない」、「いただきます」、「ごちそうさま」、「八百万の神」の思想に入る。箸を横に置くのは「いただきます」の象徴である。「いただきます」は日本独特の言葉であり、英語や中国語にはないかもしれない。箸の向こう側は神様の領域で、こちら側は人間の領域であり、神様のものをいただくので「いただきます」と言うことである。言い換えると、神様からいただいた生態系サービスの食べ物を我々はいただく、そういう意味で横に置く。年中行事との関わり、美しさ、季節の表現、まさに「いただきます」、「ごちそうさま」の世界である。これが世界中に認められて、和食が世界遺産になった気がする。
最後に、里海、里川、里山の再生を提案したい。兵庫県では、豊岡でコウノトリ、阪神南は尼崎の21世紀の森、阪神北では里山と、まさにこういった地域づくりが世界の最先端の一環でなされている。
生き物として次の世代を残すのは大体50歳ぐらいで終わるが、私たちはそれ以降も生きる。人間として第二、第三の人生をいかに有効に使うかというのが、長寿社会での一つの生きざまである。花は美しい、植物は美しい、風景は美しい、花を見て美しいというのは人間だけである。自然観、風景観をもう一度、取り返しながら、新たな里山や里地づくりができたらいいなと考える。
日本において「里山」という言葉は、江戸時代にも使われた例があるという古いものだが、実際は1960年代に農用林としての里山に、里山という定義を使われたのが始まりで、最狭義の里山は「里山林」である。
一方、メディアやSATOYAMAイニシアティブ等に使われている「里山」とは、緑豊かな人工的な場所を指し、これは「里地里山」であるので、ここでは両者を区別して、狭義の里山(=里山林)を対象として話を進めたい。
古来より日本人が、日本列島の自然となじみ合いながら生活をし、里山林というものを作ってきたということは、人と自然の共生ということを意味している。
万葉集を調べると、既にこの時代には日本列島のゾーニングが、奥山と里山と人里と非常にはっきりと区別されていたことがわかる。そして里山は、奥山に生きる野生動物と人里に生きる人との緩衝地帯の役割を果たし、人と自然の共生を演出してきた。そうした非常に上手な棲み分けが、明治維新まで、中大型の動物にただ一種の絶滅種も作らなかったという歴史を生み出してきたのである。
「里山」というものは、「人というのは自然の一要素であって、自然の中で自然と共生しながら生きていく」という、「日本人の心」がそのまま反映されたものである。日本中の里山が、実のところ「里山放置林」ばかりである現在、黒川の里山は「日本唯一の里山」ともいえ、「日本人の心」が反映された唯一の絶滅危惧種の保存が、今、黒川で示されている。
そういうことを私たちは改めて見直して、「SATOYAMAイニシアティブで二次的な自然をどう守っていくか、ということを世界と共同して作り上げていく」のと同じように、「自然の中の一要素としての人の生き方は何か、ということを目指す生き方を求めていく」ことは、ここからSATOYAMAイニシアティブに向けて発信する上で極めて大切なことではないか。

基調講演(PDF:7,259KB)

事例報告

海外の事例報告(1)

講師:ウイリアム・オルポット(ウガンダ:ネイチャー・アンド・ライブリフッド所長)
演題:「野生固有種の果実を活用した高価値商品開発の試み」

要旨
日本では、自然保全の課題は自然に戻るということだが、ウガンダでは自然を取り戻すということである。自然とともに生きることが確立されたシステムになっていない国もある。このため、人々にモチベーションを与えてその失ったものを取り戻すという試みを18カ月の期間行った。
目的は、情報をベースに行うことにより、地域のコミュニティーにそれを伝えることができ、地域の人々が自分たちの生まれた場所、自然を保全しようと思う動機を生むことである。
農地を開発すると木は失われるが、どうすればそれを保護することができるかを考えた。社会生態学的な農法であるパークランド農法は、この保護されている多品種の木が、農地の中で保護されている。しかし、国立公園や生物の保護区を除いて、人が住んでいるところにはこの保護地域はない。種の保全を行っていくためにもパークランド農法を促進していくことが大切だと考えた。
我々が注目したのは多様なフルーツである。現地の人々がそれを使い、保全していくということは非常に興味深いテーマである。11種の異なった野生の果実を集め、ジュースやジャム、ワイン等の製品を作り、成分分析を行い、野生の果実に栄養的に、また、製品としての可能性があるということを証明する。そうすることで、現地の人々にこの木を保つことが非常によいのだという説得力が生じる。
つまり、近代科学とは、私どもにそれがどれほど重要かということを数値で示してくれる。そして、近代科学と伝統的な知恵とを組み合わせて、様々な仮説というものを現実化する。それが説得力となって、現地の人々がこのような植物を保存することが大切だということが十分に理解できるようになる。

海外の事例報告(1)(PDF:6,914KB)

海外の事例報告(2)

講師:リン・ジェン(中国:中国科学院教授)
演題:「中国鄱陽(ポーヤン)湖湿地での土地利用変化の要因及び生態系サービスへの影響」

要旨
鄱陽(ポーヤン)湖は中国の江西省にある中国最大の淡水湖である。多様性に優れ310種ほどの鳥類、そしてそのうちの60種が既に絶滅の危機にあると国際自然保護連合が訴えている。
鄱陽(ポーヤン)湖は、中国で1998年に発生した大洪水の影響を最も受けた場所である。理由は人口の増加と土地の利用の変化である。この時から中国では洪水発生の要因を調査し、宅地や耕地などを元の湖に戻すということを行った。この土地活用の政策を評価し、生態系への影響を調査している。
しかし、政府からの助成金が十分でなかったので、現地の人たちが再びこの湿地を農地に転用しており、この政策の実施は困難さを増している。
土地利用の変化の原因は、気候変動と人口増加である。降雨量の減少に伴う農地の減少と、人口の増加による都市化である。このような土地利用の変化は、生態系システムにも影響を与えている。
土地利用の方法を分析するため、環境、経済等の統計を利用した。これらの統計は、土地利用の変化や生態系サービスについて評価するデータとして使用した。
保護区は鳥類生息地としての質は改善しているが、我々の研究では、経済発展がさらに進行した場合のシナリオ等についても検討している。
どのようにしてこれらの研究成果を政策に取り込んでいくか、現地の関係省庁とも議論を重ねている。その取組には若干の進展が見られるが、一方で現状をより多くの方々に知ってもらうための活動も進めている。

海外の事例報告(2)(PDF:7,648KB)

海外の事例報告(3)

講師:ユエンメイ・ジャオ(中国:雲南師範大学教授)
演題:「世界遺産・紅河ハニ棚田群における伝統的かつ持続可能な管理とその取組み」

要旨
中国南西部の雲南省紅河ハニの棚田は、ハニ族という特別な少数民族が作っている。紅河は雲南省からベトナムに流れる川で、ハニ族の棚田は紅河流域全ての自然を守っている。
ハニの棚田は、持続可能な管理を行っており、また、2013年に文化的景観の世界遺産になっている。文化的景観とは自然と人間の共同作業である。ハニの棚田は典型的に自然と人間の共生というものを示していると言える。
世界遺産に登録されている文化的景観は、多くがヨーロッパに位置している。ハニの棚田は農地として世界遺産に登録されている。2013年現在、中国には4つの文化的景観として登録されている世界遺産があるが、実際に人が住み使用されているところは、今なお有機的に継続し且つ進化しているハニの棚田だけである。
ハニの棚田は、雲南省の南に位置しており、私は研究に世界遺産の中心的な元陽県(Yuanyang Country)を選んだ。気候、あるいは土壌の分析を行い、次に森林、村、棚田そして水供給システムを研究した。森林には水を得る森、防風や美化のための森、収入を得るための森や神聖なる森等の分類がある。気候が温暖湿潤でマラリアや害虫もいない山の中腹部に村が作られ、村より低地に棚田が作られている。
ハニの人々は水を一年間枯らさず保っており、水資源をいかに管理するかということが最も重要である。特別な木材を使って、用水路のシステムを作っている。用水路の供給システムには責任者がおり、この責任者には管理費用がお米で支払われている。
また、この責任者は全ての用水路の水の供給権限を持っており、選任方法にも特別なルールがある。水力は、ひき臼や水車など様々な道具に使用されている。しかし、貧困や干ばつ、外来種などがこの地に影響を与え始めている。観光業の影響はまだ多くはないが、増加しつつある。
この文化遺産であるハニ族の棚田を保つためには、国、あるいは様々な人たちの協力が必要であり、保全には多くの人のアドバイスや支援が不可欠である。

海外の事例報告(3)(PDF:3,632KB)

国内の事例報告(1)

講師:若田恭二(満願寺森の会代表、関西大学名誉教授)
演題:「山寺と里山ー安らぎのスローライフを求めて」

要旨
満願寺は、阪急宝塚線の雲雀丘花屋敷駅から山のほうへ2キロほど、満願寺盆地と呼ばれる小さな盆地の一番奥に建っている。現在この盆地は、郊外住宅地のような光景を見せているが、満願寺は入口の仁王門をくぐっていただくと、今でも山寺に来たかのような面影を残している。
満願寺とその周辺は、電気、ガスが来る前は、柴や薪を使用して煮炊きものをしたり、お風呂を沸かしたりしていたので、裏山を里山と呼んでいた。その風景は伝統的な日本の農村風景の典型的な形であった。
バスと阪急電車を乗り継いで1時間もあれば大阪の中心地まで行ける立地条件から、1950年代の後半から近代化の波が満願寺盆地にも押し寄せ、宅地開発やゴルフ場がお寺のすぐ横にできた。満願寺が所有していた裏山は住宅街から少し離れていたため開発されなかったが、50年以上放置された状態であった。
現在、我々が里山の整備をしようとしているのがこの裏山である。以前あった茶畑の再生、古い井戸の再現、畑や用水路の整備、炭焼窯での竹炭の製造を進めている。最近では、山桜の木を植えた。植え込みも含めて里山の風景づくり、里山づくりの一つの形と考えている。
また、古民家風の茶店を作って、来訪者に古き日本の農村生活をもう一度味わってもらいたい。伐採した森林でシイタケの栽培も考えている。

国内の事例報告(1)(PDF:8,324KB)

国内の事例報告(2)

講師:島崎明代(しまざき助産院院長)
演題:「里山にある助産院」

要旨
私が助産師になったのは、病院での長男の出産経験がきっかけだった。長女の自宅出産では、自然出産の満足感とそのすばらしさに感動し、女性にとって出産はその後の人生に影響を与える大切な出来事であると感じた。そして、自然な出産を大切にする助産院がしたいと夢をいだくようになった。
現代社会は便利で効率性をもたらした反面、人間本来の本能の部分が薄れてきている。しかし、女性の産む力は本能的な部分が求められる。自然環境が女性の産むという本能を覚醒させ、手助けしてくれるという思いが私にはあった。約2年間、助産院に適した場所を探し、黒川に出会った。黒川は他の場所とは何かが違うと感覚的に感じた。黒川が日本一の里山だと知ったのは移住後のことである。
人間は聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚の五感の他に潜在的な第六感を持っている。命の誕生の場面では、不思議なことや奇跡と思われるエピソードにたくさん出会う。
命は自然との共存なしで受け継いでいけない。私の助産院は黒川の自然と共存し、支えられている。ここを訪れる妊婦さんを癒やすことだけでなく、私自身、自然との調和が平常心と冷静さを与え、第六感を研ぎ澄まし、鋭い直感力をもたらしてくれるように感じる。
自然の恩恵を受けて幸せな出産を経験した女性は、母としても自信に満ちあふれ、自然とともに子育てがしたい、お世話になった人や自然に恩返しがしたいと考える。「バネの会」はそんなお母さんたちがつくった子育てサークルである。子育て中のママやパパや子供たちが、春を迎えた里山のように元気で生き生きできる会を願って名づけられた。
私の第二の夢は、黒川の里山で多くの女性がお産できる「お産の森」をつくることである。多くの女性が満足な出産を経験し、子育てやその後の人生を豊かに生きることを願っている。満足な出産を経験し、愛を与えられ、自然で伸び伸びと育った子供たちは、人をいたわり、思いやる気持ちを大切にしていくと考えている。里山の恩恵を受けて生まれた子供たちが自然とともに成長し、里山に恩返しがしたいと里山を守っていく、そんな循環が起こればいいと思っている。
また、里山は自然だけでなく、出産後の体の回復や赤ちゃんのおっぱいに必要な食材の宝庫でもある。助産院の食材の提供や調理なども、過疎化問題解決の糸口になるのではないかと考える。

国内の事例報告(2)(PDF:2,579KB)

パネルディスカッション

コーディネーター:中瀬勲
パネリスト:ウイリアム・オルポット、リン・ジェン、ユエンメイ・ジャオ、若田恭二、島崎明代

概要
パネルディスカッションは、セミナーの報告順に、コーディネーターが質問を投げ、その回答や報告の中で言い残したことを回答いただく形で進行した。
中瀬)ウイリアム・オルポットさんには「住民の方々にどんなことを話しながら進めているのか」、「他国、他地域との多様性保全の進め方」、「フルーツの効果一覧表の今後の使用法」についてお聞かせ願いたい。
オルポット)リーダーシップを持つ人物、例えば、文化的、政治的なリーダーに話をすることが最も効果的な方法。二番目に国境付近の協力について、隣国の組織との協力も重要。スーダンとサハラ砂漠南部においても牧草地が失われている。このため、多様性保全のメッセージを広報、発表、書物の出版を通じてほかの国に伝えることも大切。フルーツの活用については、製品開発、マーケティングが重要であるが、自然の中に失われた価値のある木を回復することが一番重要な課題。
中瀬)リン・ジェンさんには「ポーヤン湖湿地の土地利用に関する規制」、「集水域全体でポーヤン湖の生態系サービスをどんなふうに考えておられるのか」についてお聞かせ願いたい。
リン・ジェン)大洪水の後、どうすれば人々が自然とうまく共生できるかを考えるようになった。政府の政策により、人々の従来の住みかである湖に近いところから高台に移住した。そのことで、学校、病院等のインフラ整備やマーケット、市場などの整備、雇用機会の提供という問題が生じている。昨年から人々は移住する必要はないが代わりに保全活動を行う必要があるという新しい政策が行われており、これは前政策よりも良いと思っている。2つ目として、この湿地には山とか川とか湖を運営する委員会があり、その中でバードウオッチングやハイキング、ボート遊びを通じて観光客を呼び込む取り組みを行っている。観光客にも環境保全の研修を受けてもらいたい。
中瀬)ユエンメイ・ジャオさんには「ハニ族の棚田の五つの森のゾーニング」、「水の管理」、「ツーリズムと多様性」についてお聞かせ願いたい。
ユエンメイ・ジャオ)ゾーニングについては、水を供給するための山上の国有森、次に建築材や薪を供給する私有林と共有林、宗教的な目的で使う聖なる森、そしてその下に個人所有の森となっている。水の管理については、大きく幹線となる用水路から分ける方法が採用されている。しかし、この供給システムは機能していないところもある。ツーリズムについては、この10年間で観光客の数が10倍になったが、非常に広い地域なので、インパクトは大きなものではない。現地の人々は観光客が来てくれることを望んでいる。地方政府がミュージアムをつくる予定なので、そこで自然・文化・歴史を分かり易く人々に伝えていきたい。このため、どのように観光客と対応するなどについて現地の人々を教育していく必要がある。
中瀬)若田さんには先ほどの発表の最後の結論を教えてください。
若田)去年の春から始めた満願寺での里山づくりの基本的な考え方を三つにまとめてお話しする。一つは景色の心地よさである。特に私が中心的に思うのは、木を切ることによって、風と光が入ってくる。これは景色的にもすばらしいし、森の健康という意味でもいいことである。さらに生物多様性にも結びつく。これが50年の放置里山林において失われていたものだと思うので、それを一番に大事に考えている。
次は、生活そのものの体験を味わっていただきたい。たき火やかまどで料理をつくる、お茶を沸かす、そういう伝統的な生活体験が持っている不便さが、我々を健康にするかもしれない。そのスローな生活がかえっていいのではないかと思う。
最後は、五感を使って里山を体験していただく。景色は目で見る、同時に風や雨を肌で感じるのも当然必要だし、果実や野菜を収穫し味わっていただく。目で見て、舌で味わって、肌で感じて、耳で聞いていただく。そういう全体で里山を味わっていただく、それが、心の安らぎに結びつくのではないかと考えている。
中瀬)島崎さんは川西市黒川でないと助産院を開業できないと考えたのか。
島崎)当時勤務していた病院の同僚に黒川で開業することを話すと、多くの方はその場所での開業に否定的であった。
中瀬)島崎さんはしまざき助産院で出産した方々と出産後どんな関係をつくっていこうかとお考えか。
島崎)助産院に来る方とは、妊娠中、出産、産後を通し、信頼関係ができ大変密接な関係となる。出産が生活の流れにあり、子育ても自然に生活の中に入っていく。
中瀬)島崎さんと黒川の環境がお互いに共鳴したということですね。最後に各人にこれからの展望について語っていただきたい。ウイリアム・オルボットさんは今の研究以外にどのようなことを行いたいか、リン・ジェンさんは湖の未来の理想型について、ユエンメイ・ジャオさんはハニ棚田群から世界に対して何か発信できることがあれば、若田さんは満願寺の今後展望について、島崎さんは過疎化、高齢化に悩む黒川のしまざき助産院で出産した親子とともに何ができるかについてアイデアがあれば教えてください。
オルポット)経済システムの変化により、コミュニティーはお金が必要となっている。果実だけではお金を得ることはできない。精神性の価値を伝えるのはむずかしい。人とコネクションをとるためにお金のように目に見えるものでかかわる必要がある。そのため、研究、リサーチし、本当の情報を得て教育を行うことで人々の意識も高めなければならない。
リン・ジェン)将来のポーヤン湖の湿地は、美しい景観で、自然と人の共生が実現されている場所でなければならない。自然だけではなく、人々も含めて美しくなければならない。そのためには、その過程に農民の人たちにも参加してもらい人々へ研修や教育、啓蒙を行う。
ユエンメイ・ジャオ)棚田はコミュニティーのアイデンティティで人と自然の共生である。里山のような新しいやり方が必要。一番大切なのは経済的な価値があること。人々が収入を得ることが必要。そうでないとこのシステムを保全できずに棚田を捨ててしまう。どのようにすれば十分な収入をこの村に与えることができるか、幾つかのやり方があると思う。ビジネスとして、農業をそこでやってもらうとか、観光客から収入を得るとか、あるいは政府からお金を提供するといった方法もある。
若田)満願寺は、安らぎや現代生活のストレスからの解放のため、田舎のスローなテンポの生活、景色といった環境を味わえる場所にしたい。
島崎)黒川地域は、法律上住宅の新築が困難なので、空家が生じると、新しい里山を守ってくれる方が入ってくるという循環が生じればよい。また、多くの人が黒川を訪れるてくれるのが一番良い。幸せな出産をすることで、育児不安や虐待はなくなると思っている。行政はいつも産後の人をフォローするような取り組みをしてくれと言われるが、その前のお産をもっと幸せにすれば、人が変わっていくのではないかと思っている。里山のモデルとしてお産の森計画をバックアップしてくれたらすごいいい話だなと思っている。
中瀬)ディスカッションのキーワードは「景観」、「観光ツーリズムと多様性の保全」、「経済システム」、「メンタル」の4点であったと思う。また、ハニ族のことわざ「森は水の源、水は棚田の源、棚田はハニ族の源」はまさにアイデンティティのこと。こういうことを協議したら、結構おもしろい概念が出てくると思う。

閉会あいさつ

辻原浩(アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)センター長)

要旨
北摂SATOYAMA国際セミナーに御参加いただき主催者を代表して心から厚く御礼申し上げる。
APNは、アジア太平洋地域における気候変動、生物多様性の保全など、環境問題の研究と人材育成の推進などを目的に設立をされた政府間の機関であり、兵庫県の支援を受け、神戸市に事務局を設置し、1996年から活動を開始した。現在加盟国は、アジア太平洋地域の22カ国である。
人と自然が共生する里山という生態系は、生物多様性の保全、持続可能な社会の実現につながる一つの答えになるという考えから、数年前から里山に関連する研究にも支援を行っている。
里山の保全や活性化に関心のある皆様が集い、世界各地の事例や国内外の知見を共有できたことに大変大きな意義があると思う。
このセミナーの成果が日本一の里山と言われる北摂の里山を守り伝えていくこと、そしてそこでの保全活動が世界各地の同様の活動との連携を推進することに貢献できればありがたい。

現地説明会(エキスカーション)

1日目

1開催日時:平成28年11月10日(木曜日)
2集合・解散場所:宝塚ワシントンホテル(兵庫県宝塚市栄町2-2-2)
3訪問先:満願寺(川西市)

満願寺(勝輪館)

説明者:樋口進(阪神北県民局県民交流室環境参事)
北摂里山博物館構想、北摂里山大学についての説明を行いました。
説明者:若田恭二(満願寺森の会代表)満願寺での里山整備についての説明を伺った後、里山整備地の視察を行いました。

満願寺(茶房かのん)

IPSI運営委員と里山整備についての意見交換を行いました。

                     満願寺整備地      

 

2日目

1開催日時:平成28年11月10日(木曜日)
2集合場所:宝塚ワシントンホテル(兵庫県宝塚市栄町2-2-2)
3解散場所:宝塚ホテル(兵庫県宝塚市梅野町1-46)
4総合案内人:橋本佳延(県立人と自然の博物館主任研究員)
5訪問先:川西市黒川地区

妙見の森

講師:辻本哲(川西里山クラブ会長)

妙見の森ふれあい広場において、辻本氏より,川西里山クラブの活動について伺いました。その後、辻本氏の解説を伺いながら、妙見の森のエドヒガン桜群を巡りました。

今西家炭窯

講師:今西学(菊炭生産家)

今西氏の炭窯を訪ねた。実際に菊炭の生産に使用している炭窯を前にして、今西氏より菊炭づくりについて詳しい話を伺いました。

黒川公民館

昼食休憩(地元食材を使ったお弁当とお茶のお点前)を取った後、各自自由に明治時代に建てられた黒川公民館(旧黒川小学校)を見学しました。

黒川・桜の森

講師:大門宏(菊炭友の会代表補佐)

大門氏の案内で、黒川・桜の森を巡った後、里山の整備・保全に係る取り組みについて詳しい話を伺いました。

しまざき助産院

講師:島崎明代(しまざき助産院院長)

島崎氏から黒川に助産院を開いた理由、黒川の魅力、黒川での将来の展望についての話を伺いました。

北摂租界

能勢電鉄妙見口駅前にある北摂租界で、川西市長、活動団体も出席したレセプションパーティを行い、IPSI運営委員と関係者との交流を図りました。

      妙見の森         黒川公民館   

補足説明等

SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI(イプシー)の概要)

設立:2010年10月
活動目的:SATOYAMAイニシアティブの取組みを国際的な協力で進める。
事務局:国連大学サステイナビリティ高等研究所(東京都渋谷区)
加盟団体:190団体(H28.9現在)、内訳:政府・自治体35、NGO71、その他84)

SATOYAMAイニシアティブとは

失われつつある里山のように人の営みを通じて形成された二次的自然環境を改めて見直し、持続可能な形で保全・利活用していくためにはどうすべきかを考え、行動しようという取組み。2010年10月に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において日本国環境省から提唱された。 

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お問い合わせ

部署名:阪神北県民局 県民交流室

電話:0797-83-3137

FAX:0797-86-4379

Eメール:hanshinkkem@pref.hyogo.lg.jp