令和2年(不)第10号事件の命令概要
兵庫県労働委員会は、令和4年2月17日、標記事件に係る命令書の写しを当事者に交付しました。その概要は次のとおりです。
1 当事者及び申立要旨
- (1)申立人 X組合
- (2)被申立人 Y会社
- (3)申立要旨
- ア 申立日
令和2年10月19日
- イ 請求する救済内容(労働組合法第7条第2・3号)
2 命令要旨
〔主文〕
- (1) 被申立人Y会社は、申立人X組合との団体交渉前に、一部の申立人組合員と団体交渉事項及びこれに関連する事項に関して直接話し合うなどして、申立人X組合の運営に支配介入してはならない。
- (2) その余の申立ては棄却する。
〔事件概要〕
被申立人Y会社(以下「被申立人」という。)の支配株主である申立外尼崎市が申立外C1会社に対して保有株式を譲渡する覚書を締結したことから、被申立人の従業員が申立人X組合(以下「申立人」という。)に加入あるいは申立人と協力して、株式譲渡に反対する署名活動、ビラ配布及び団体交渉などを展開していた。一方、申立人の一部組合員は申立人の方針と異なり、株式譲渡後の待遇についても交渉事項にしたいと考えるようになった。
本件は、申立人内にかかる路線対立がある中で、①申立人が、被申立人に対し、被申立人の株式譲渡には反対であること及び団体交渉の開催を申し入れているにもかかわらず、被申立人の代表者等が申立人の一部の組合員と会食し株式譲渡後の退職金等に関する話合いを行ったこと、②前記①の会食を目撃した申立人組合員A2に対し、被申立人のB2部長が株式譲渡への賛否を問う発言をしたことが、いずれも労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第3号の不当労働行為に該当し、③前記①で申立人が申し入れた団体交渉において、被申立人の代表者等が、前記①の会食で一部の申立人組合員には提示した退職金等に係る資料を申立人には提示しない等の対応が、同条第2号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。
〔判断要旨〕
- (1)被申立人代表者等と申立人の一部組合員との会合
被申立人の代表者等と申立人の一部組合員が会合を行ったのは、申立人が団体交渉開催や株式譲渡反対を申し入れていた時期であり、被申立人は、そのことを認識しながら、申立人の一部組合員に株式譲渡後の条件等の説明を資料を提示しながら行っている。このことは、申立人との団体交渉を軽視するものであると同時に、株式譲渡反対という申立人の基本姿勢に否定的影響を及ぼし、申立人内部の路線対立を助長し、ひいては申立人を弱体化させるおそれのあるものであったといえる。また、被申立人の代表者が、申立人の一部組合員に、株式譲渡に係る説明については、「組合が先」であるとの認識を示していたことからも、被申立人は、本件会合が、組合の弱体化ないし反組合的な結果を招くおそれがある行為であるとの認識を有していたとみるのが相当である。
したがって、被申立人の代表者等が申立人の一部組合員と会合を行ったことは、申立人の団体交渉の実効性を失わせ、申立人の弱体化を図るものとして、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
- (2)被申立人B2部長による申立人組合員A2への発言
B2部長がA2に株式譲渡への賛否を問う発言をした時点において、B2部長はA2が申立人に加入していたことを認識していたとまで認めることはできず、使用者の側に不当労働行為意思が存したとはいえないから、労組法第7条第3号の不当労働行為には該当しない。
- (3)本件団体交渉における被申立人の対応
被申立人は、本件団体交渉における議題について一定の回答及び説明を行い、また、退職金等に係る資料の提示については、株主等に協議しなければ回答することができない旨述べ提示しなかったものの、後日に申立人に交付しており、被申立人のこれらの対応は、不誠実な団体交渉であるとはいえず、労組法第7条第2号に該当しない。
3 審査の経過
令和4年2月10日の公益委員会議で、一部救済命令を発することを決定
4 命令書全文(PDF形式)