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兵庫県の自治体と県内外スタートアップが協働し、社会課題の解決を目指す『ひょうごTECHイノベーションプロジェクト』。事業レポート01では、ドローンを活用した獣害対策の実証の様子をお届けします。
1.民家のすぐ近くにサル・シカ・イノシシ!?急激に変化する獣害の実情(社会課題)
2.ぼこぼこの地面、壊れた柵、現場で見た被害拡大の影(現場視察)
3.追い払いたいし、生息域調査もしたい。実証に向けて溢れる職員の思い(ミーティング)
4.実証当日~屋根の上のサルvsドローンfeat.デカンショ節(実証1回目)
5.実証リベンジ~サルの警戒音で効果は?サルのぬいぐるみは果たして?(実証2回目)
6.実証後に語ってくれた、不安とお互いへの感謝(実証を終えて)
7.来年度も続く、ドローンを活用した獣害対策の挑戦(来年度に向けて)
実証過程の動画は以下の画像をクリックしてご覧ください。

「サル・シカ・イノシシを道端で見るなんて昔は考えられんかった。子供のころは、サルは山の方まで見に行かないと見れなかった。今じゃそこらへんで見れるし、家の屋根に上って農作物食べながらリラックスしとる。」
苦笑いでそう話すのは、丹波篠山市で農業を営む山内さん。定年退職後、生まれ育った丹波篠山市で米や黒豆を作っている。

丹波篠山市は、黒豆をはじめとした高いブランド力を持つ農産品を多く産出し、農業は地域経済の要だ。今、農家たちの頭を悩ませているのが深刻化する獣害である。従来、市は山と田畑の境界への柵の設置や山に近い田畑を囲う電気柵の設置を進め、被害の防止に努めてきた。ところが近年、その定石が崩れ去ろうとしている。
「河川の藪をねぐらにし、民家近くの田畑を根こそぎ荒らしていくイノシシが出てきた。」
獣害対策を推進する丹波篠山市森づくり課の安井係長はこう語る。人口減少や放棄農地の増加に伴い、手入れできていない土地や河川などの民家近くに、動物が姿を現し始めた。

「未曾有の状況には、従来のやり方では対応できない。新しいテクノロジー・ICTの力を活用するしかない。」
森づくり課の安井さんは、このような思いから、ひょうごTECHイノベーションプロジェクトに応募したという。
そして、スタートアップと丹波篠山市の二人三脚の実証が始まる。
百聞は一見に如かずというが、現地で獣害拡大の痕跡を目の当たりした。確実に、人間と動物の関係性は変わってきている。
「すべての田畑を電気柵で囲む金銭的・時間的余裕もない。民家や道路近くに箱罠を設置するわけにもいかない。ドローンが、人の手も費用も最小限で済む解決策になるのでは。」
スタートアップと会う前、安井さんはこう語った。
「夜になると、柵の破れた部分を通って、山からばーっと動物が出てきます。」
10月下旬、田畑の前で職員から説明を受けるのは、今回タッグを組む株式会社skyerの代表取締役の宇佐美さん。
skyerはドローン講習やドローンを用いた事業に実績を持つ。単なる飛行運用に留まらず、自治体や地域の課題に対し、ドローンをどう活用するか、コンサルティング~実証・社会実装まで一貫して取り組むスタートアップである。ひょうごTECHイノベーションプロジェクトには他の市町から紹介を受け応募した。

「私たちは、地域の課題解決を起点に事業展開をしていきたいと思っています。課題解決の先に我々のビジネスがある。そのような気持ちで今回も挑んでいます。」
宇佐美さんは、実証に対して、このように意気込みを語ってくれた。
次は山の中へ。道なき道を登って数分。普段運動をしていないとぜぇぜぇと息が上がるほどだが、安井さんと宇佐美さんはスイスイと登っていく。ふと目を上げると、山と田園地帯を分ける高さ約2~3メートルの金属製の柵。動物の田畑への侵入を防ぐ目的で、山を囲むように設置されているそうだ。
「ここから動物が出てきていますね」
指さす先には、柵が壊われポカンと直径約50cmの穴。周囲は土が掘り返されており、獣道も確認できる。夜にいそいそと穴を通る動物の姿が目に浮かぶ。
このような柵の損壊は数知れず、修復が中々追い付つかないという。
イノシシが潜んでいたという河川敷の確認にも向かう。車を走らせ約5分。山から離れ民家も多い。田畑には電気柵が設置されていない。以前は獣害が少ない場所だったという。
河川敷は高さが1m以上の草木が生い茂り、動物がどこに潜んでいるか皆目見当が付かない。
「茂みに棲みつかれると、どこにいるかわからんのです。昼は茂みに潜み、夜出てきて田畑を荒らすんです。もしドローンで上空から様子を確認できれば、対策できるんじゃないかと思っとるんです。」
職員の口からはドローンに対する期待が滲む。そんな期待を背に、宇佐美さんはドローンの高度、土地の管理者の状況など、ドローン飛行に必要な情報をテキパキと確認していた。
午前10時から始まった現場確認は、夕方4時までみっちり実施された。
「今回はサルで追い払いの実証やれればいいと思ってるんですが。」
翌週のオンライン会議で、早速丹波篠山市からskyerへ提案があった。イノシシ・シカは夜に行動が活発になるのに対し、サルは昼に動くらしい。

動物の習性をよく知る安井さんからの提案に、宇佐美さんも「いいですね。」と話が進む。実証ターゲットはC群と名付けられた20~30匹の群れになった。
丹波篠山市ではAからEまで5つの群れが存在し、それぞれ生息域や個性が違う。C群は民家や寺社の屋根で餌を食べたりキャーキャー騒いだりする傾向があり、ちょっとお調子者グループらしい。住民からすれば全く可愛いくない。
「追加で、ドローンで動物の生息域調査もやれるんじゃないかと思ってるんですが。実は、どれくらいのイノシシやシカがどのように動いているか、どうやって田畑に出てくるのか詳しくはわからんのです。」
丹波篠山市から追加依頼。暗視カメラを山に設置すれば動物は写るが、行動経路までは追えない。カメラを増やすにも、費用対効果があるのかわからない。従来の対策の限界が垣間見える。
「できると思います。」
と宇佐美さんが即答。
「事前に飛行箇所の木の高さを確認し、適切な距離を保ち安全に飛行します。」
ドローン講習事業に実績のある宇佐美さんからの回答を受け、生息域調査の実証も決定。
いままで丹波篠山市が頭のなかで描いていた思いや考えが、一気に実現味を帯びていく。
12月中旬。数回のミーティングを経ていよいよ実証計画の詰め。
主な内容は2つ
・夜間:ドローンを活用したイノシシ・シカの生息域調査
・日中:ドローンを活用したサルの追い払い実証
追い払い実証では、サルの出没地まで車で移動、サルを確認次第ドローンを飛ばす。
「まずは、ドローンの飛行高度を見ながらサルに接近させ、そのあと光や音などで検証しようと思います。」
宇佐美さんからの提案で、光の点滅、猛獣の声、人の声、アラート音など、計20パターンの組み合わせが決定。
デカンショ節(丹波篠山市の伝統民謡)も入れてみましょ、と丹波篠山市の粋?な提案で21パターンに、、、


「我々も、このような実証は初めて。どうなるかわからないが、できることはやっていきたい」
丹波篠山市の前向きな姿勢とスタートアップのskyerだからこその柔軟な対応が功を奏し、スムーズに話が進む。そのあとは、住民への周知方法、効果の検証方法・追い払い成功の定義について調整を行う。
最後には、「ドローンを近づけただけで逃げたらそこで実証終わってしまう。」「デカンショ節で逃げたらどうしよ。」など冗談をいいつつ会議は終了。
1月中旬、実証当日朝10時。底冷えする寒さだが、快晴である。
「おはようございます。」爽やかだが深夜の生息域調査の疲れも見える宇佐美さんと安井さんが合流。サルに付けた発信機の信号を受信アンテナで拾いながら、C群のおおよその位置まで車で移動する。
「あの家のところサルいないですか?」
職員・skyerスタッフ総出でサルを探していると、民家の屋根の上にサル発見!よーく見ると、3匹のサルが柿をもぐもぐ。
「あっちにも。」
2つ隣の農具倉庫の上で数匹が毛づくろいタイム。一見微笑ましい光景だが、住民からすれば、田畑を荒らす迷惑者。なんとか追い払いたい。

すると突如
「バコーン、バコーン、バコーン」
爆発音が鳴り響き、周囲の空気が震えた。skyerのスタッフがビクッと驚く。
「追い払い用のロケット花火を住民の方が使ってるんです。でも少しでも離れたサルには効果は薄いんです」
職員が冷静に教えてくれる。確かに、先ほどのサルはまだ毛づくろいをしていた。
近隣住民に実証許可を取りに行くと、ぜひドローン実証をやってくれとのこと。いざ実証。

skyerのスタッフ3人が手際よく準備を進める。ドローンを組み立てるのは操縦士の前田さん。定年退職後、第2の人生に何か新しい仕事ができないかとskyerの高度な講習を受けて、スキルが求められる現場でも確実な運用ができるスペシャリストになった。今ではドローン操縦の講師としても活躍している。
5分後もたたないうちに準備完了、テイクオフ。
「リリクシマス。」
機械音声の後、プロペラが回り始める。ブゥーンと一気にドローンが空へ舞い上がる。皆が空を見上げる。上空50mまでほんの一瞬だ。


「もう2m左。そこで停止。…」
宇佐美さんの指示に従い、前田さんがドローンを操縦。屋根上のサル4匹がモニターに映った。
「こっちは、毎日苦労しているのに!」「これ、追い払えたらでかい。」
日々、対応に苦しんでいる安井さんのホンネが漏れてしまう。ここからが正念場だ。

「高度をぎりぎりまで下げます。」
「光・常時点灯。」
ライトを当てるが、日中だからかサルは気づく様子がない。
「点滅。」
ドローンに気づいたようだが、逃げない。
「猛獣の声。」
ガオーと虎の声が周囲に鳴り響く、かなり大きい音だ。効果はない。
人の声も使ってみる。日本語、英語、中国語。変化はない。
期待の大音量デカンショ節が流れた。だめだ。サルは動かない。
「サルも市民やからデカンショ節を楽しんでいるのかな。」
民謡ではサルは逃げない。世界で初めての貴重な記録になったのかもしれない、、、
「次、アラート音行きます。」
ビーっと大きな警戒音が鳴った瞬間、3匹のサルがサッと山の中へ逃げた!成功か?
いや、1匹残っている。
幼さの残るサルだ。ドローンのモニターに越しに目が合う。このサル以外は帰ってくる様子はない。
この個体だけが残った。その後、数回鳴らしても結果は一緒だった。

少し心に引っかかる結果となった実証1回目。参加した職員から一言。
「サルがドローンを危険なモノと認識していない可能性が高い。」
アラート音など不快感を誘発するもの、人の声・猛獣の声など、本能的・後天的に危険を想起させるものなど網羅的に実証したが、ドローンを脅威と認識させる具体的かつ強烈なシグナルが必要だとの見解だ。
市役所に帰って、次回に向けての反省会が始まった。
「サルの生の警戒音はどうだろう。」
経験豊富な職員から提案があった。交流のある学術機関からサルの警戒音データをもらうか、C群のサルを捕獲した際の録音を使うことでまとまった。

「サルのぬいぐるみをドローンから吊るせば、ドローンを脅威と認識する確率が高まるかも。」
また突拍子もないアイデアがポッと出た。だが、視覚・聴覚からアピールする合理性もあり、次回の実証には内容を精査しつつ取り入れることが決まった。
反省がひと段落し、深夜実施したイノシシ・シカの生息域調査結果がskyerから発表される。
結果から言えば、こちらは満足な結果となった。
「こちらが夜間に上空から撮影した記録です。」
と暗視カメラの映像がモニターに写される。いくつかの影が数匹森の中を移動する。
「おぉー。」
職員たちから感嘆の声が漏れる。
違う映像では、約10頭の群れが列をなして獣道を歩く。

「こんなにいたのか。」「山の中での動物の行動がよくわかる。」
職員の手ごたえは抜群。夜間にドローンを飛ばすため、実証としては調査完了としたが、次につながる内容となった。
2月中旬、大寒波の後で一面雪景色の中、2回目は決行された。
「晴れてきたら、エサを探しに山から出てくる。」
流石は地域を熟知している職員。その予想は的中した。
「C群が一斉に移動をしている、今来れば実証できる。」
昼1時過ぎに、職員から連絡が入った。急いで現場に向かうと、道端から10数メートル先の雪の原を歩く数頭のサル。近くの竹やぶからもガサガサと音がする。

急いで実証の準備が始まった。skyerの宇佐美さんと前田さんが、一段と手際良く、4分程度で準備を完了させた。ドローンが急上昇し、サルがいる方角に転回する。

「サルの警戒音いきます。」
キュイキュイと高い鳴き声が響き渡る。先日罠にかかったメス猿の鳴き声を録音したものだ。
突如ザザっと音がして振り返ると、背後の竹やぶからサルが飛び出し、山に向かって駆け出していく。道路を大急ぎで横切り、車も気にする素振りはない。
「あそこ、あっ逃げた。」
今度は安井さんが山を指さしながら叫ぶ。C群の一団は、みんな山の奥まで入っていったようだ。成果は上々だ。


「ちょうどサルの鳴き声っぽい音量でした。効果あったといえるんじゃないか。」
サルの警戒音を提案した職員が、満足げにskyerを褒めたたえる。
「こりゃ気持ちいですね。」
ドローン操縦士の前田さんからも、ニコッと笑みがこぼれる。
成功体験を糧に再度実証。今度はぬいぐるみをぶら下げてる。また別の場所に現れたC群を探知し、実証スタート。
「・・・後ろよし、上よし、飛ばします。」
ぬいぐるみをぶら下げての飛行ということで、熟練の宇佐美さんがドローン操縦を担当。空に浮かぶドローンとぬいぐるみの組み合わせは奇妙で、まるでUFOにぶら下がるエイリアンのようだ。
「キュイキュイ・・・」
サルの警戒音を出しながらドローンがサルに近づく。すると、ものの一瞬でサルの姿は山へ消えていく。

「山の中入ったな」
とみんなが一言。ぬいぐるみをつけての実証は若干あっけなく終了。
「判定は難しいですが、明らかに前よりサルが逃げるのが早くなった。サルは学習能力が高く、C群全体がドローンに対し不快感や危機感を覚え始めたのではないか。」
サルの様子を見ながら、安井さんが推測してくれた。そう語る際の声色は真剣だが前を向いた明るさがあった。
「本日はわざわざ鳥取から来ていただきありがとうございました。」
丹波篠山市の職員からskyerのスタッフに、ねぎらいの言葉が投げかけられる。
「こちらこそ、ありがとうございました。今から奈良に向かい次の仕事に備えます。」
とskyerの宇佐美さんが驚きの返事をして、現地実証が終わった。
「動物相手は非常にやりにくい。学習能力や個体差がある生き物に対して、効果があるのかないのか判定するのは難しく、自治体の財政状況を考慮すると思い切ったことも中々できない。今回、チャレンジができて本当に良かった。」
実証終わりに、丹波篠山市の安井さんが、思いを吐露してくれた。
「最初は上手くいくかほんとに不安だった。でもskyerさんは、我々と一緒になって一生懸命考えてくれたし、積極的に実行してくれた。skyerさんにとってもチャレンジの部分はあったと思うが、前向きな気持ちのスタートアップだからこそ、我々とマッチングして、実証にうまく取り組めたのかもしれない。」

skyerの宇佐美さんも今回のプロジェクトをこう振り返ってくれた。
「私たちにとっても初めての部分も多く、動物の習性などには全く詳しくなかった。丹波篠山市さんの豊富な経験やアイデアに助けられて、実証も満足のいく形になったと思う。この実証で得た動物の反応データを活用し、より精度の高い獣害対策パッケージとして他地域にも展開していきたい。」

「ドローンが新たな希望の一つであることは間違いない。」
と丹波篠山市の安井さん。様々な獣害対策を実施してきたが、ここにきてドローンを使ったアイデアが大きく前進した。
「遠隔操作・無人操作による追い払いや、上空からの動物追跡などを見据えながら、先進的な獣害対策ツールの一つとして、ドローンの活用検討を進めていきたい。」
国もICT技術を駆使した獣害対策を推進することから、この取組は来年度にも繋げていく予定だ。
さらに、現地での会話から、来年度の新たな取組の萌芽が芽生えた。サギ(鳥)の立木への集団営巣が問題となっている。これをドローンで対策していこうと、話が盛り上がった。既に来年度に向けて2者間で話も進んでいる。
ひょうごTECHイノベーションプロジェクトを通じて交じり合ったスタートアップと自治体。そのシナジーは今後も強くなっていきそうだ。
ひょうごTECHイノベーションプロジェクトへの参加やスタートアップとの協働に興味をお持ちの自治体関係者様、事業創出のきっかけを探しているスタートアップの皆様、お気軽にお問合せ先までご連絡いただけますと幸いです。
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