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知事:
芸術文化と観光を融合した学びを通じて、但馬地域にふさわしい専門職大学を作ろうということで、この設置の検討が始まりました。
但馬地域は、日本有数の温泉地である城崎温泉や、天然記念物であるコウノトリの郷、ジオパークとなっている山陰海岸もあり、神鍋のようにスキーが出来る高原もあります。また、小京都と呼ばれる出石のように文化・伝統を有する地域もあり、文化芸術はもとより伝統芸術が引き継がれている地域です。そのような意味で、観光と芸術文化を融合させた素晴らしい地域・環境であることが発端となってこの専門職大学をつくることになった訳です。
一方で、地域振興の観点からは、但馬地域には4年制の大学がなく、そのことで大学進学時の若者の人口流出が地域課題でした。4年制の大学をつくることでそのような期待にも応えることが出来ます。但馬の人だけが入る大学ではありませんが、全国から学生が来てくれることを期待しています。全国的、世界的な芸術文化、観光の拠点となる大学に育ってほしい、と思います。長年の但馬地域の課題解決の一つとなってくれるよう期待しています。
平田 オリザ氏:
まだ開学までにやらなければならないことがたくさんありますが、ここまで来ることができたことに大変感謝しています。良かったなと思うことが4つあります。
この大学に是非来たいと思っている、たくさんの高校生がいます。中には、開学を待って1年浪人して受験をする生徒もいます。そういう学生に、開学することを伝えることが出来るのが学長候補者として非常にうれしく思います。
もう一つは但馬地区16万人、東京都とほぼ同じ面積の地域に、はじめて4年制大学ができます。但馬地域の方々の悲願だったと思います。その期待に応えることが出来ることは喜ばしいことだ、と思っています。
私は演出家かつ劇作家で演劇をやっていますが、演劇界、又ダンス界にとっても、国公立の大学で演劇やダンスの実技が本格的に学べる大学が日本にできます。今、東京芸大の特任教授もしていますが、東京芸大も音楽学部と美術学部はありますが、演劇学部はありません。これは世界的にみても、ある意味、非常に恥ずかしい状況にありました。その点では、パフォーミングアーツの世界にとっても、非常に大きな歴史的な一歩を踏み出すことが出来た、と思います。
最後に、ここまで、認可が下りるまで、県庁の準備室の皆さんをはじめ多くの方々にご尽力いただきました。改めて皆さんに感謝申し上げます。今後、ますます報道の方々にもお世話になると思いますのでよろしくお願いいたします。
記者:
まず求める学生像について。また、これまで発表されていると思いますが、受け皿として強調したいカリキュラムについて、概念的なことに加えてもう少し踏み込んだ具体的な内容を教えて下さい。
平田氏:
学年80人の非常に小さな大学ですが、資料請求だけで3,900件あり、全国からの関心が高い大学がスタートできることになりました。これは井戸知事の観光とアートを結びつけるという、非常に先見の明というかセンスの良い構想が非常にあたったということだ、と思います。私は、大きな隙間と呼んでいますが、あるようでなかった大学ができるということです。
もちろん演劇やダンスをやりたいという学生が、割合としては多くなるかと思います。ただ、これまでオープンキャンパスでも、生徒達に、この中に世界的なアーティストを生み出せれば、それは私自身がアーティストなので、とてもうれしいことではありますが、それは頑張って出来ることではない、と言っています。大学なので、「(アーティストに)残念でした、なれませんでした。」では大学の責務を果たすことができないので、あくまで演劇やダンスはリベラルアーツとして、4年間演劇やダンスに打ち込みながらきちんとその経験を生かして就職していく、あるいはもっと広く言えばその人の人生が豊かになるということが、一番大事だと思います。
諸外国、特にアメリカでは、リベラルアーツの核として演劇教育があるので、そういった観点ですべての学生に演劇教育もしくは演劇的手法を使ったコミュニケーション教育を受けてもらうというのが本学の特長です。
どんな学生に来てもらいたいかというと、出口とも関わりますが、自立した学生を育てたいと思っています。今、就職するにしても、企業内転職も含めて、今後、転職は当たり前のようになっていきます。就職する力よりも転職する力を持つ学生を育てたい。そのために、自分で考え自分で行動できるような学生を育てたいというのが、理念的ではありますが、今のところ私が考えていることです。
記者:
先進的な大学ということで、世界に羽ばたいてほしいという思いと、但馬、兵庫県に貢献してほしいという思い、相反するような二つの思いがあるかと思いますが、例えば世界に羽ばたいて兵庫に戻ってきてほしいとか、巣立っていった人材が中長期的に兵庫県にとってどういう人材になってほしいか、知事の思いを伺います。
知事:
県立大学の卒業生にも言えることですが、兵庫県に貢献してもらえる人材が育ってほしい、あわせて芸術文化という普遍的な分野で、日本だけにとどまらない世界的な広がりを持った人材を育ててほしいと思います。その両面を、一人で志す人もいるかもしれないし、学生全体の中で、世界で活躍する人材、地域に貢献する人材と役割分担をしてもらっても良いと考えています。この大学で学んだことを自分の人生で生かすとともに社会に還元していただけるように、そういう人材が育ってくれることを期待しています。
記者:
但馬地域の魅力と、設置に向けて後押しになった部分について平田先生に伺います。
平田氏:
知事もおっしゃっていただいたように、この大学はアートと観光を結びつける新しい大学です。今はコロナで止まっていますが、ここ7、8年日本はインバウンドが非常に伸びました。これは観光業界のご努力もあった訳ですが、大きく言えばやはり中国、東南アジアの経済発展により、そこに何億人という中間層が生まれ、その人たちが最初の海外旅行地として、近くて安全で魅力的な日本を選んでくれたと
しかし、次はもう一度来てもらわないといけません。欧米に行かずに、日本を選んでもらわないといけません。そのときに、もう、景色だけ何度も見たいという人はいないでしょう。そうすると、スポーツや食も含めた文化観光がこれから非常に重要になってくる訳です。このコンテンツを開発し、観光と結びつけられるような人材を育成するという大学が、今までは、コースとしては、私たちが勉強させていただいている和歌山大学のようにありますが、ここに絞った大学というのは日本では初めてとなります。
但馬ではまさにそれが課題であり、ポテンシャルでもあります。城崎温泉は非常に素晴らしい温泉地で賑わってはいますが、ゆくゆくは、やはりアジアの富裕層の長期滞在を狙いたい、と考えています。国際リゾートへの脱皮です。そのためには、昼のスポーツと夜の芸術というのは必須であり、世界の常識です。ですから、但馬の課題を解決するような人材を、まさにピンポイントで育成するような大学でもあります。それは、知事がおっしゃったように世界的な普遍性を持つ課題でもあるので、中には国際的に活躍する人間もいるでしょう。しかし、国際的に活躍しても、それは私たちの専門職大学の卒業生が活躍するということで、必ず兵庫県の名前を高めてくれるだろう、と期待しています。
記者:
今回のコロナの影響で芸術面は非常に打撃を受けた分野です。コロナによって描いた大学像に変化はあったのでしょうか?
平田氏:
芸術、とりわけパフォーミングアーツ、舞台芸術と観光業は最も打撃を受けたジャンルでした。逆に言うと、はからずもこの2つの親和性が当たり前のことのように認識された訳です。私たちとしては、当初は想定していなかった新しいミッションとして、観光業と舞台芸術の復興を担うような人材を育成したいと考えています。ちょうど4年後くらいにはインバウンドも増え始めて、出来れば就職も良くなってもらいたいと思っていますし、ちょうどそういう意味では良い時期に来ると思います。もともとリスクマネジメントの授業も入れており、新しい大学だからカリキュラムも柔軟性を持って対応できるので、そういったところも取り組んでいきたい、と思います。
記者:
日本にこのような大学がなかったという中で、新たに設置される意義を再度お伺いします。
平田氏:
観光業とライブエンターテイメント産業は、どちらも日本に残された数少ない成長産業の分野です。しかもこれらを繋げていく人材は、これまで大学では育成されてきませんでした。それを育成したいと考えています。これまで、明治期に帝国大学が出来て、これは国家を支える人材を育成する大学でした。戦後、自治体を支えるために各県が公立大学を作りましたが、これは地域の繁栄や安定のために人材を確保することが目的でした。これからできる私たちの専門職大学は、地域をおもしろくする、地域を活性化する、地域をいきいきする、そういう新しい側面があります。総じて言えばソフトパワーと言うことになりますが、こういう視点がこれからの大学教育にも必要になってくるのではないでしょうか。それを他県に先駆けて、兵庫県の専門職大学として進めていきたいと思います。
記者:
若い力が地域に大勢押し寄せることで期待する効果について、知事はどのようにお考えでしょうか?
知事:
技術だけではなくアートを通じて物の見方や考え方、新しい人との交流の姿を見出す、そうやって自分で考えて自分で行動できる人材が創造性のあるアートを作ります。その人たちが地域の課題に対応してくれる、あるいは世界的なアートの世界で活躍することにつながっていくのではないかということを期待しています。
記者:
入学試験はどのような試験をされるのですか。学生のこういう部分を見て、こういった学生をとってということがありますが、一番重視されている部分はどこですか。
平田氏:
これまでも大阪大学や四国学院大学の入試改革に取り組んできました。今年は大学入試改革元年ですが、文部科学省からは大学に入ってからの学びの伸びしろを計るような試験をするようにといわれています。まさに私たちの大学は、新しい大学で実習などが多い、大学の授業もグループワークがほとんどです。
グループワークや実習先で迷惑をかけないような人材を選んでいかないといけないということで、大学入試にもそういった要素を入れています。余り詳しくは言えませんが、出来る限りそういった能力を見ていく試験にしたい、と考えています。
今年はコロナのこともあるので、感染予防に気をつけながら取り入れていくことになります。
記者:
学科の試験もあるようですが、学科は得意ではないが非常に将来性を感じるような学生が受験するように思いますが、どのようにしてそういった学生を見つけて拾い上げようとお考えでしょうか?
平田氏:
多様性を確保することが今回の入試改革の一番の肝でありますので、できる限り学生の多様性を見ていく試験をしたいと思っています。小論文や面接、集団面接など、それぞれの試験を組み合わせる形で、できるだけ学生の長所を見ていきます。ただ、一方では基礎学力は必要なので、基礎学力のある学生の中で個性を見ていくという制度設計にしています。
記者:
大学を出た後、地域に貢献する学生もいるでしょうし、世界で羽ばたく学生もいると思いますが、今のコロナを機に、都会でなくとも良いではないかという流れになってきています。大学を卒業した学生が、但馬に居ながらにして世界で活躍できるということがあるかもしれません。あるいは活躍して、ある時点で但馬に根を下ろす人もいるかもしれません。何十年か先に、卒業生がどういう風に但馬の地域に根を下ろすか、将来的な構想、理想像を知事にお伺いします。
知事:
何十年先ではなく10年先に実現したいと思っていますが、きっと忘れられない学生生活を送って卒業してくれると思っています。平田先生に、学長、教員として学生をリードしていただくので、平田哲学がしっかり身についた学生が巣立っていくのではないか、と期待しています。平田先生がいつもおっしゃっているように、地域の開発、地域を高めていくのに、お金とか時間とか資源に加えて、文化の要素がないと人々は感動しないし、地域振興に繋がっていきません。そういう原点を、平田先生にこの大学で育てていただきたい、と思います。そうやって育った学生は、世界のどこにいても但馬のことを忘れないでしょう。そういう意識を持った卒業生の但馬での活躍を期待しています。
記者:
平田先生が、文化の最先端をいく東京を離れて豊岡、但馬を選んだ理由と、大学の認可を受けた率直な受け止めをお聞かせ下さい。
平田氏:
演劇においては、今豊岡が最先端です。東京はコロナもあってなかなか原状回復が難しい状況です。こういった時代には、産業と同様、文化にもバックアップ機能が必要です。東京が止まったといって、日本中の文化の創造活動が止まってしまうようでは困ります。豊岡、但馬が文化の1つの拠点になっていくことが重要だと思います。芸術文化というのは普遍性を持っているので、それは世界に向けての拠点になります。少なくとも10年以内に大学を中心に、アジアの文化のハブになるような活動に貢献したいと思います。
引っ越して1年になりますが、私も豊岡市民、兵庫県民ですので、大学の認可が下りたことにほっとするとともに、責任も重いと感じています。私には小さなこどももいますので、子育てや教育の事も含めて、自分事として豊岡、但馬、兵庫県の教育に貢献できれば、と思います。
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