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「尼崎市内を流れる川の水は直接海に出ていきません」 初めて、そう聞いた時、海に面しているのになんで?と、意味がよく分かりませんでした。 海抜ゼロメートル地帯が多い尼崎市。まるで要塞都市のように、東西と南をぐるりと防潮堤で囲まれ、押し寄せる津波や高潮から守られています。 一方、台風や線状降水帯など市内で大雨が続くと、防潮堤が壁となって、雨水が海へ流れていくことなく市内に滞留することになります。放置すると浸水被害が生じます。 この課題を解決し、大雨から街を守るのが、尼崎運河と2カ所の排水機場です。 運河の貯留機能で浸水を防ぐ市内に降った雨水は庄下川と蓬川などの河川を伝い、市の南端に位置する尼崎運河に流れ込みます。 尼崎運河と総称されるこのエリアは、東堀、西堀、南堀、北堀、中堀、旧左門殿川など多数の水路が、複雑に入り組んで構成。通常時は、尼崎市の産業を支える運河として利用されています。 最近では、サップやカヌーなどのレクリエーションや環境学習の拠点としても親しまれています。 ですが、一旦、大雨になると防災施設に様変わり。あらかじめ運河内の水位を下げ、巨大な水瓶として貯留機能を発揮し市内の浸水被害を防ぎます。 それでも、貯留するだけでは、やがて越水し、ゼロメートル地帯を中心に浸水被害が生じてしまいます。ここで活躍するのが排水機場です。
蓬川から尼崎運河はサップやカヌーを楽しむ人も多い
巨大ポンプで防潮堤外へ排水市内の雨水を防潮堤外の海に排出するのが市内2カ所に設置された排水機場です。 東浜排水機場は、尼崎運河南端にある尼ロック(尼崎閘門)の隣に立地。8台のポンプを備え、1分間で小学校の25メートルプール8杯分(4,320トン)を排水します。 東堀の東端に設置された松島排水機場は、更に排水能力が高く、1分間で25メートルプール11杯分(5,460トン)。 先日、この松島排水機場の建設に携わった企業の関係者と話す機会がありました。正確には、その建設会社の社長のご子息と、ある行事で隣り合わせたのです。 「昔、うちの父親は、台風が来ると、大雨の中を飛び出して排水機場が無事か点検しに行ってましたよ。『うちで作ったもんは自分で守らんと』と言ってね」 まるで映画「あまろっく」の世界。 排水機場を管理する尼崎港管理事務所職員だけではなく、様々な人達の努力と思いによって、まちが守られてきた―。心強いエピソードです。
高潮は防潮堤で、雨はポンプで浸水を防ぐ
大雨予報なら事前にポンプで運河の水位を下げる
防潮堤の弱点を守る巨大鉄扉実は尼崎を守る防潮堤には“切れ目”があります。 左門殿川にかかる国道2号の路面の高さは、周辺の防潮堤より低く、この地点からの浸水を防ぐ必要があります。 その役目を担うのが左門橋防潮鉄扉。大雨など緊急時に国道2号を閉鎖して高潮の侵入を防ぐ巨大な鉄扉です。 尼崎港管理事務所が設置・保有し、協定により、尼崎市が操作を行います。 平時は動かさないため、緊急時に支障なく動作させるため、年に1度、国・県・市・県警・消防・鉄道会社など関係機関が総出で点検操作訓練を実施します。 訓練は兵庫と大阪を結ぶ大動脈・国道2号を閉鎖するため、生活や経済活動への影響を最小限にすることが必要。街が寝静まった深夜零時から2時間かけて行います。 今年も7月に無事点検と操作訓練が行われました。 「エレクトリカルパレードみたいな感じですよ」 事前説明の際、尼崎港管理事務所長からそのように説明を受けました。緊張感をほぐすためのジョークだったかもしれません。 ですが、巨大鉄扉が、関係職員を乗せて国道にせり出してくる光景は、確かに、有名な東京ディズニーランドのパレードを彷彿させるものがあります。 異なる点は職員の顔に笑みがなく、眼光鋭いこと。災害から地域を守るため、真剣な表情でキビキビと操作点検訓練を進めていきます。夜の空気が緊張感に満ちていました。 阪神地域に大きな浸水被害を出した平成30年の台風24号の際には、マニュアル通り鉄扉が閉鎖され、尼崎市街地での浸水被害はありませんでした。毎年の訓練の成果と言えるかもしれません。 左門殿橋の巨大鉄扉。通常時はひっそり待機し、そして、年1度の訓練時は、ディーゼルエンジンの咆哮を響かせて、将来の水害を防ぐための訓練を続けていきます。
今年7月7日に実施された点検操作訓練。
幅1.2メートル、高さ4.4メートル、長さ23.4メートル、重量40トン防潮鉄扉が国道2号を閉鎖していきます。 閉鎖完了後、鉄扉と路面の隙間をチェックする尼崎港管理事務所長
長期計画のもと高潮対策や総合治水を推進
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