更新日:2026年3月5日
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41歳の大村素子さんは、森林大学校で学ぶ現役学生。年齢も経歴も、若い同級生たちとは少し異なる。
生まれは埼玉。転勤族の家庭に育ち、高校時代に和歌山の山あいの町で過ごした経験が、今も記憶の根っこに残っている。大学卒業後は社交ダンスの選手としても活躍し、その後、大阪から兵庫県佐用町へと夫や子どもたちと移住。自然のそばでの暮らしを求めたこの地で、地域の人々とのあたたかい交流にふれた体験が、「緑を守り、地域に貢献したい」という想いへ変わり、森林大学校への入学にも繋がった。

「森林大学校では木の切り方だけじゃなく、どういう山を育てていくかを考えさせられます。高齢化が進む地域で、林業をどう継いでいくか。そして、自分に何ができるのか。授業を通して、自身の暮らしや生き方にも向き合っています」

入学当初は、年齢の差に戸惑いもあったという大村さん。けれど、その不安はすぐに消えた。
「みんな、いい意味で年齢を気にせず接してくれて。ちょっとぶっきらぼうなんですけど、根は本当に優しいんです。遠慮なくいじってくれたり、普通に話しかけてくれるのがすごく嬉しいですね」

年齢の壁を越え、今ではムードメーカーとしてクラスに馴染み、充実した学生生活を送っている。
自身の経験も踏まえて、どんな人に森林大学校を薦めたいか尋ねてみた。
「自分探しをしている人にこそ薦めたいです。過去の大学生の中には、社会人経験を経て学び直しで来ている人も多くいます。2年間という限られた時間ですが、学ぶ内容の密度は濃く、本当に幅広く勉強ができます」

森林大学校には、年齢も背景も異なる学生たちが集まる。教える側もまた、現場経験を持つ教員が揃い、知識や技術だけでなく、山と向き合う姿勢や考え方まで伝えようとしている。


「技術を教えるだけでは、人は育たない。山とどう向き合うかを、自分で考えられる人になってほしい」
そう語る古川さんの言葉の通り、林業は教えられるだけの仕事ではなく、感じ取って身につける営みなのだ。

そして、大村さんのような学生がその言葉と向き合いながら、自らの生き方を見つめている。
森の木々が地下の根でつながり、互いに栄養や情報をやり取りしながら共に育まれるように、学生たちもまた支え合い、学び合いながら、自分の「根」を深く張っていく。
現場に根差した学びの中で、それぞれの「幹」をしなやかに伸ばす森林大学校には、そんな時間が流れている。


佐藤さんは姫路出身。祖父が営む造園業を手伝いながら育ち、幼い頃から「木を整える」という仕事が身近にあった。
「造園屋さんは木をきれいにする散髪屋さんみたいなイメージでした。剪定した枝の形が整っていく様子や、季節ごとに変わる庭の景色を見るのが楽しかったんです。」
大学校の演習林で初めて自分の手で木を伐ったときの感覚は、今も鮮明に残っている。
「自分で倒す方向を決めて、その通りに木が倒れたときはできたって感じがしました。整備の終わった山をドローンで見たら光が入っていて、ああ、自分たちの手で変えたんだなって思いました。」
森林大学校に進学してからは庭を整える造園の仕事とは異なり、山全体を相手にする林業のスケールの大きさを実感した。木に向き合うという点では、つながっている部分もあるという。
「雰囲気は全然違うんですけど、木の状態を見ながら整えていくところは共通していると思います。日光が入るようにするとか、水が通りやすくするとか、どう育つかを想像して手を入れるところは同じなんです。」
将来は宍粟市内の会社に就職し林業の現場で働きたい。
自らの手で地域の山を守り、整えていくことが目標だ。

伊達さんは宍粟市の出身。地元の高校を卒業後、森林大学校へ進学した。
山に囲まれて育った彼は、人が多い場所より、静かな環境が落ち着くという。
「都会の人が多いところはどうしても落ち着かないんです。やっぱり山のほうが自分には合ってるなと思います。」
実習を通し、林業のイメージは大きく変わった。
「林業って思っていたよりもずっと頭を使う仕事なんです。木をどう伐るか、どう倒すか、周りの安全も考える。自分の成長がそのまま仕事の質につながるんです。」
判断ひとつで仲間の安全が左右される。その緊張感も含めて、日々の実習に向き合っている。
暮らしの面でも、宍粟の距離の近さが心地よいという。
「近所の人がスノボに誘ってくれたり、日頃から声をかけてくれたりするんです。人との距離が近いのが、ここのいいところやなって思います。」
将来は地元の市職員として地域に関わりたいと考えている。
「森林大学校で現場の技術を学んだうえで、公務員として森に関わる道を選ぼうと考えています。現場にも出られる職員として、森と人をつなぐ助けになりたいです。」
最後に、この学校を薦めたい人について尋ねると、少し笑ってこう答えた。
「自分は感覚派なんで、体で覚えたいタイプの人に向いてると思います。やってみて気づくことが多い仕事なんで。」

小林さんは鳥取県出身。
地元の高校でも林業を学び、木を伐るだけでなく、植えて育て、森を管理するまでの一連の流れを学びたいと森林大学校へ進学した。
インターンシップや伐倒競技では多くのプロと出会い、現場の空気に触れた。そのなかで耳にした「若手が本当に足りていない」という声は、想像以上に切実だったという。
「現場の大人たちが口をそろえて若手不足の話をしていて。林業は木を伐るだけじゃなく、次の世代を育てていく仕事なんやなと感じました。」
だからこそ、小林さんの将来の目標ははっきりしている。
「まずは森林組合で経験を積んで、その後は高校で教えたいです。自分が高校で林業を学んで進路が開けたように、地元でも林業を志す若い人を増やしたいです。」
現場と教育の両方を見ているからこそ、その間を行き来できる人になりたい。小林さんは、森と次世代の橋渡し役を目指す。

岩蕗さんは座学や実習、さまざまな人との出会いを通し、一つの考えにたどり着いた。
「今は木を伐る技術より、どう残すかに興味があります。」
そのきっかけは、祖母の家の庭に立っていた大きな木だった。
「子どもの頃から見ていた木が、数年前に全部伐られてしまって。安全のためだとは分かっていても、すごく寂しかったんです。」
彼は今、残せる木をどう残すかを考えながら日々の実習に取り組んでいる。
「木ってその場所の思い出なんです。だからこそ、ただ伐るんじゃなくて、どう生かせるかを考えて行動したいです。」
目指すのは木を倒す技術よりも、森と向き合い生かす道を探る森の専門家。
そして、その視点を育てられる環境がこの森林大学校にはある。