兵庫県知事齋藤元彦、今、みなさんと。vol.014

復興から新たな飛躍へ
兵庫の地場産業を再発見・再発信する年に

阪神・淡路大震災から28年。(株)神戸酒心館代表取締役社長の安福武之助さん（左）、(株)神戸化学代表取締役の鈴木浩さん（右）と、地場産業の復興の歩みや、持続可能な社会へ向けた取り組みについて語り合いました。

復興を遂げた神戸の地場産業

齋藤　神戸の日本酒業界、ケミカルシューズ業界は阪神・淡路大震災により大きな被害を受けました。当時どのような状況でしたか。
安福さん　神戸酒心館となる前の福寿酒造では、阪神「石屋川」駅付近にあった江戸後期建造の蔵が全壊。白壁蔵や

石屋川沿いにあった福寿酒

造の倒壊した木造蔵

れんが造りの酒蔵といった灘の伝統的な景観は損なわれ、51社あった企業のうち9社が廃業を余儀なくされました。当社は他の酒蔵と合併し、さらに、清酒製造事業と観光事業、飲食事業を一体化。1997（平成9）年に神戸酒心館として再出発することで何とか乗り切ることができました。
鈴木さん　震災の後、会社のある長田地区は火の海となりましたが、幸い当社は火事に巻き込まれず、復興の準備を進められました。長田のシューズ業界は一社完結だけでなく分業によって町全体でものづくりをしていますので、「早く復興しないと」と励まし合い、比較的早く立て直すことができたと感じています。
齋藤　阪神・淡路大震災の時は基本的に自己再建が求められたため企業再建の大きな負担になりました。しかし、それが教訓となって東日本大震災では、被災した企業への国の手厚い支援の仕組みができたのだと思います。

県公館で行われた鼎談（ていだん）の様子

サステナブルな商品開発に挑戦

齋藤　各社で新たに取り組まれていることについて教えてください。
安福さん　日本酒の原料である酒米や水を安定的に調達するためには温暖化や気候変動などの環境問題はリスクであ

「エコゼロ」をはじ

めとする取り組み

は、昨年末にドリン

ク業界の世界的な環

境アワードを受賞。

ると考え、環境負荷をかけない酒造りに取り組んでいます。100％再生可能エネルギーやカーボンニュートラル（※脱炭素）な都市ガスに切り替え、継続的な省エネによって醸造工程での二酸化炭素の排出量ゼロを達成した日本酒「福寿純米酒エコゼロ」を2022（令和4）年秋に発売しました。それを皮切りに全ての商品で環境負荷をかけない酒造りに取り組んでいます。
鈴木さん　長田のシューズメーカーが参加するブランド「神戸シューズ®プレミアムライン」で、廃棄する漁網の繊維からできた生地を使ったパンプスを2022年に発売しました。今は、ペ

廃棄漁網を再利用

した「サステナブル

シリーズ」

ットボトルやバナナの皮を再利用した素材など、環境に配慮したさまざまな生地が生まれています。あらゆる素材で靴作りができる長田の技術力を生かしてファッション性の高い商品を開発、今年1月の展示会で発表する予定です。
齋藤　県内の90％以上を占める中小企業や地場産業で、こうした二酸化炭素の排出削減の取り組みや環境負荷軽減を目指した商品・サービスの開発が広がっていってほしいと思います。

2025年大阪・関西万博に向けて

齋藤　2025年の大阪・関西万博では、兵庫県全体を会場とする「フィールドパビリオン」において地場産業の取り組みやものづくりの現場を多くの人に見てもらいたいと考えています。
安福さん　万博は兵庫の土地の魅力を国内外にアピールするチャンスと捉えています。その魅力の一つとして、日本酒を発信していきたいと思います。
鈴木さん　長田地区にはおいしいB級グルメもあるので、ぜひ現地に来てそれらを楽しみながら、シューズを買ってほしいですね。
齋藤　2025年は阪神・淡路大震災から30年の節目の年でもあります。これを機会に、日本酒、ケミカルシューズといった兵庫・神戸を代表する地場産業の震災からの復興、その先の新たな挑戦を発信したいと思います。今年は兵庫の地場産業の再発見・再発信の年となるよう、県としても一緒になってさまざまな事業に取り組んでいきます。