阪神・淡路震災復興計画推進方策
高齢社会下の近代都市を直撃した未曾有の大災害-阪神・淡路大震災。
わが国が一大転換期に直面し、各分野で構造改革が強く求められている今日、内外からの温かいご支援を受けて復興に携わる私たちの使命は、被災地を単に元に戻すだけではなく、さまざまな反省点や課題を明らかにすることとあわせて、すべての人々が安心して暮らせる成熟した地域社会の創造を先導していくことでありましょう。
こうした観点から、私たちは、大震災から学んだ教訓や各界・各層から寄せられた貴重な提言を踏まえて、「阪神・淡路震災復興計画(ひょうごフェニックス計画)」を策定。10年後には、被災地を21世紀を拓く先導的な地域とすべく、その実現に全力をあげてまいりました。
あの深い悲しみの日から3年が過ぎたいま、被災者をはじめ関係者の皆さんの懸命なご努力のお陰で、都市基盤の整備や恒久住宅の建設が進展、産業活動も全体としては震災前の水準に回復するなど、被災地はフェニックスのごとく蘇りつつあります。いよいよ本格復興への新たなステップの段階を迎えたといえましょう。
しかしながら、その行く手には、高齢化・国際化等の進展に伴う構造改革など、かつて経験したことのない数多くの課題が立ちはだかっています。それらを乗り越え、創造的な復興を成し遂げるためには、県民や企業、団体、行政などが心をひとつにあわせ、持てる力や英知を結集しつつ、従来にも増して、本格復興に向けた努力を重ねなければなりません。
そこで兵庫県では、今回、これまで3年間の取り組みと成果を検証し、この計画をさらに効果的かつ着実に推進していくための戦略を具体的に示した「阪神・淡路震災復興計画推進方策」を取りまとめました。
これに基づき、関係者の皆さんと共に力をあわせながら、成熟社会にふさわしい創造的復興を進め、人と自然、人と人、人と社会が調和し共生する“こころ豊かな兵庫”を一歩一歩構築していく決意です。今後とも、より一層のご協力とご支援を心からお願い申しあげます。
阪神・淡路震災復興計画(ひょうごフェニックス計画)の目標達成の第一段階として、これまで、インフラ、住宅、産業にかかる緊急復興3か年計画を中心に、被災者の生活基盤の早期回復に全力を傾注してきた。
復興計画の目標を実現するためには、次のステップに向け、被災者をはじめとする県民や企業、行政、団体等が共通認識を持って、一体となった取り組みを進めていく必要がある。そこで、復興状況全般の横断的な点検を行い、阪神・淡路震災復興計画の目標の効果的かつ着実な実現を図るために、この「阪神・淡路震災復興計画推進方策」を策定した。
なお、策定にあたっては、阪神・淡路震災復興計画推進委員会(設置期間:平成7年11月~平成10年3月)から提言された「阪神・淡路震災復興計画推進委員会総括提言」や、平成9年度に各地域で実施した復興推進フォーラム、県民や各種団体からの意見・提言、及び、震災後の復興の進捗などを踏まえ、総合的な検討を加えた。
2 性格と役割
この推進方策は、本格復興に向けて、復興計画の新たな推進のための戦略を、以下のような観点から示すものである。
- これまでの成果と状況変化を踏まえた、阪神・淡路震災復興計画の目標実現
- 被災地の各復興主体による自立復興推進、被災地内外からの協力と参画の促進
3 構成
第1章 本格復興に向けての基本方向
- 「阪神・淡路震災復興計画」の基本理念や五つの基本目標を実現していくための視点と、各分野に共通する今後の基本的考え方を明らかにする。
第2章 分野別推進方策
- (1)住宅・生活・中小企業対策等に係る当面の優先課題、(2)高齢社会、産業構造等の構造的課題など、今後復興を進める上での重要課題とそれに対する方策を、復興計画の基本目標別に示す。
- 方策を具体化する事業として、(1)既定の復興計画事業を補完する事業、(2)既定の復興計画事業を拡充する事業を掲げる。
1 基本理念・基本目標の堅持
「阪神・淡路震災復興計画(ひょうごフェニックス計画)」は、単に震災以前の状態を回復するだけでなく、新たな視点から都市を再生する「創造的復興」を成し遂げることを基本方針として、以下に掲げる基本理念と基本目標に基づいて復興を進めることとした。
平成9年度に各地域で実施した復興推進フォーラムをはじめ、県に寄せられた意見、それらを踏まえた「阪神・淡路震災復興計画推進委員会」からの提言は、創造的復興の実現を期待し、具体的な方策の実施に向けた提案となっている。今後とも、阪神・淡路震災復興計画の理念・目標を堅持して復興推進を図る。
人と自然、人と人、人と社会が調和する「共生社会」づくり
- (1) 「兵庫2001年計画」の理念に基づく先導的な復興事業を、この地域において推進する。
- (2) 高齢化・成熟化の進む21世紀へ向けて、一人ひとりが主体的に自らの生活を創造しながら、共生する社会づくりを進める。
- (3) この地域の持つ文化的風土のうえに立って、外国に開かれたまちづくりを進める。
- (4) 自然への畏敬の念を持ち、自然と共生しながら、命を守り育む、アメニティ豊かな都市づくりを進める。
- (1) 21世紀に対応した福祉のまちづくり
- (2) 世界に開かれた、文化豊かな社会づくり
- (3) 既存産業が高度化し、次世代産業もたくましく活動する社会づくり
- (4) 災害に強く、安心して暮らせる都市づくり
- (5) 多核・ネットワーク型都市圏の形成
2 当面の課題と中長期的課題への二元的取り組み
被災者の生活再建や中小零細企業対策など当面の課題に対して引き続き積極的に取り組むと同時に、被災地の本格的な復興に向けて、中長期的な視点から、21世紀の成熟社会のあるべき姿を見据えた事業についても、その重要度や波及効果を念頭に置き、優先度の高いものから順次取り組む。
- (1) 当面の最優先課題への対応
被災者には、早期に生活の復興を遂げた人々がいる一方で、様々な理由から、今なお自立復興への足がかりをつかめないでいる人々もいる。復興は、被災者一人ひとりが生活を再建し、安全で安心して快適に暮らせることが前提となる。
これまでにも、被災者、とりわけ「自立復興」が困難な高齢者などの一日も早い生活復興のため、被災市町とともに、それぞれの生活実態や生活再建の段階に応じた総合的、体系的な諸施策のきめ細かな推進に努めてきた。しかし、恒久住宅への本格移行期を迎えた今、個々の復興の格差や、恒久住宅移転後の支援など、新たな課題が生じてきている。
産業の分野でも、業種、企業規模、地域による格差が見られ、中小・零細企業には依然厳しい状況がみられる。
このため、恒久住宅への円滑な移行や移行後の支援をはじめとする生活支援策、復興に遅れの見られる事業分野や厳しい経営状況にある中小企業等への支援等の産業対策をさらに拡充し、これまで以上にきめ細かい対応を図る。
- (2) 構造的課題等の中長期的課題への対応
阪神・淡路大震災は、少子化・高齢化をはじめとした社会の成熟化が進む中、社会構造のあらゆる面で構造転換を迫られている時期に発生した。
生活・産業等の基礎的な基盤の回復に一応の目途が立ち、「創造的復興」を本格的に進めるための基礎的条件が整ってきた今、近代都市の抱える問題をあらためて浮き彫りにした阪神・淡路大震災の経験や、復興の過程を通じて得られた教訓や地域の特性を生かしながら、新しい都市文明の形成をめざす、本格的な取り組みを進める。
- <生活・文化>
成熟化の進展とともにに、人々の意識や価値観は、生産中心・量的価値重視から、環境・安全・文化など人間的・質的価値重視へと変化しており、これまでのような量的拡大を追い求めることが人々の幸せに直結しなくなりつつある。
今後の復興にあたっても、高齢社会の諸課題、成熟社会の価値観の変化に対応しながら、家族やコミュニティなどの新たなあり方を模索しつつ、都市生活の新しい展開をめざす。
- <産業>
世界的な大競争時代への対応を求められている経済分野については、たくましい産業社会を取り戻すと同時に、21世紀の成熟社会にふさわしい産業構造を構築していく必要がある。高度情報化・技術化、少子化・高齢化、環境・エネルギー問題、多様なライフスタイルなどに対応する新しい産業の導入・育成に努めるとともに、地域に密着した中小企業や商店などが、新たに形づくられるまちの中で、自らの努力・創意工夫を生かしながら、次の時代にふさわしい発展の活路を見いだすことができる、魅力ある事業活動環境の整備を進める。
- <都市>
震災によって一気に顕在化した、現在の都市が構造的に抱える課題は、生活、文化、産業など各分野の課題が複合したものであり、単に都市基盤を形成するだけでは解決しきれない複雑な問題である。
今後の都市づくりを進めるにあたっては、高齢化したインナーシティや都市機能の過度な集中等、20世紀の都市の脆弱性について再認識し、安全で安心な都市づくりやコミュニティの形成を図る。
また、住民一人ひとりの個性を尊重し、かつ相互に交流できる機能や場が身近にコンパクトにそろい、居住者にとってまち全体が生活空間となる、アメニティ豊かな人間サイズのまちづくりや、住民相互が文化・生活習慣・価値観の違いを認め合い、異質なものが共生する多文化社会の構築を進めていく。
これらの課題は、互いに密接に関連し、息の長い横断的な取り組みが必要となる。このため、構造的課題解決のための起爆剤となるような各種シンボルプロジェクトの着実な実現を図りながら、各分野の取り組みを先導していく。
また、今後、「創造的復興」を実現する先導的な取り組みを、本格的に進めるにあたっては、複雑多様な課題に対応する政策を、迅速かつ創造的な発想、手法により推進するとともに、県民参加や県民との協働のシステム、県と市町の新しいパートナーシップを確立するための仕組みを拡大していくなど、成熟社会にふさわしい行政システムを構築する。