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協働のための広報 兵庫県 広報ガイドライン Hyogo Public Relations Guidelines
すこし、黒田官兵衛になってみてください。いまから部隊を率いて、山頂を攻略しなければならない。最初に何を考えますか?
槍、弓矢、鉄砲、馬、兵士などの戦力を確認して配置を考える……のは、実はまだ早い。最初にすべきは、「旗を立てること」です。
旗とは、「あの山頂を目指す」というビジョン、理念。「我々はどこを目指すのか」という目的地を最初に定め、誰もがわかるように、高々と掲げる。時系列で整理すると、「未来」に属する事柄になります。
目指す目的地が定まったら、現状を分析します。いま私たちはどこにいて、どんな戦力を持っているのか。時系列で「現在」の部分を、しっかり確認する。
そのうえで、どうやってその「未来」を実現するのかという「シナリオ」を描きます。晴天ならどのルート、雨天ならどのルート。あるいは軍勢の士気を高めるにはどうする?里の民を味方につけるには?
このように、未来に描いた目的を達成するために描くシナリオが、「戦略」です。
「シナリオ」である戦略ができて始めて、具体的場面でどうするか、槍や鉄砲や馬や兵士など個別のアクションプランを考えます。これらは「戦術」です。広報なら、チラシやSNSなどの具体的広報物ですね。
戦略なき戦術は、どうなるか。「いま若者はSNSだからとりあえずやっておこう」「チラシはとりあえず基本的に去年と同じ、見た目は変わった感を」……この広報(部隊)は、効果を出さずに全滅でしょう。
戦略とは、仮説でもあります。仮説がないと検証できず、改善もできない、まずは戦略から始めよ、です。
ここで注意!手段と目的を、間違えないでくださいね。
たとえば、最新の鉄砲を3千挺、入手したとします。これを活用する戦略を立案、「3段構え連続射撃」という戦術も決定した。ところが戦の当日、まさかのゲリラ豪雨に……。
ここで“せっかく”の格好良い戦術、うまくいくはずだった戦略にこだわると、部隊は全滅します。戦略は、目的達成のための手段。状況に応じて、あるいは効果を測定しながら、変えても大丈夫です。
さらに戦術は、戦略に合わせて変更します。ただ戦術だけが、目に見える。なのでつい、チラシの枚数やアクセス件数が気になりがちです。でもそれは手段であって目的ではありません。常に、本来の目的に立ち返るようにしてくださいね。
「理念」「戦略」「戦術」は、英語にするなら、“why”(なぜするのか)“how”(どうやってするのか)“what”(何をするのか)。この「why - how - what」の順番で物事を説明すると、相手に伝わりやすいといわれます(コラム「ゴールデンサークル(サイモン・シネック)」を参照)。
what(何をするのか)は、企業でいうと、商品ですね。安いから買う、便利だから買う。そして買い替えるときは?他社の商品とくらべる。それが、お客の行動です。
一方でwhy(なぜするのか)は、企業でいうと、理念になります。企業理念に共感・共鳴して、その活動を応援したい、一緒にビジョンを実現したい。……となると、もはやお客ではなく「ファン」や「サポーター」、つまりは当事者です。
広報の目的は、組織の外部・内部に共感者や協力者など「当事者」をつくることで、その組織の事業が本来の目的をより速く・より確実に達するためにあります。
なので、何よりもまず、whyがしっかり伝わることが重要。what(自治体なら個別の事業)だけを伝えても、当事者は増えません。
戦略作りは、このwhy=ビジョンという旗を、高々と掲げることからスタートします。その内容は、自分勝手な「欲」ではなく、広く社会一般の共感を得る「夢」であることが大切です。県のため?県民のため?みんなはちゃんと見ています。
もちろん、こうして掲げたビジョンは責任もって実現してくださいね。その覚悟なく、きれいな言葉だけを並べて夢(この場合は幻想)を見せるのは、詐欺。実態なき広報は、大げさではなく犯罪だと思って、誠実な広報をしてくださいね。
次のページ:1章 広報の意味『自治体広報あるある(1)アリバイづくり広報』
まとめ