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協働のための広報 兵庫県 広報ガイドライン Hyogo Public Relations Guidelines
「広報はラブレター」なので、これから3つの「典型的な」チラシを紹介しますが、その内容を、「ちょっと仲良くなりたい子を初めてランチに誘っているセリフ」に置き換えてみます。誘われた方はどう感じるか、ぜひ想像しながら読んでみてください。
(※いま日本の行政の現場は男性が多いので、ひとまず男の子のセリフにしています)
こちらは「薬物の乱用の防止に関する条例」のチラシです。ちなみに、デザインも色使いも、見ていただくと分かるように、なかなか素敵です。この「あるある」の試みは、それぞれのチラシを評価するものではなく、あくまでも行政広報が陥りがちなパターンの例として出させていただいています。どうぞご理解ください。
では、何と書いてあるか見てみましょう。「『知事指定薬物』の製造、販売の禁止」「『知事指定薬物』の使用、所持の禁止」、そして「『指定薬物である疑いがある等の危険ドラッグ』の使用の禁止」……などとあります。さあこれを、初めての食事に誘う場面に置き換えたら、どういう台詞になるでしょう?ぜひ、誘われている側のきもちになって、聞いてみてください。
うーん、テンプラニージョ種らしいリコリスやなめし革の香りでタンニンはやはり強く、段階的にはD.O.より格下となるVdtテーブルワインとなるけど、ワイン自体の品質は高いよね
……いかがですか?おそらく今されている表情そのままが答えですね。聞かされたほうは何と思うか。
何語?
おそらく、ほとんど意味がわからなかったと思います。実はこの男の子の台詞は、ワインのソムリエ用語です。言葉の内容がわかるのは、ごく一部の通(ツウ)だけとなります。そしてこのチラシも、一般からの受け止め方は、おそらく同じなんですね。「お!知事指定薬物ね!リョーカイ!」と思うひとは、なかなかいないでしょう。
もしも今回のチラシの目的が、内部説明資料でしたら、このように「一部の関係者にだけはすぐわかる言葉遣い」でOKです。(この場合の「内部」とは、行政も議会も警察も含めるイメージです)
しかし今回のチラシの目的が、危険ドラッグに関係する可能性のある住民に対して、「これまでよりも取り締まる範囲が広くなったよ、やめといた方がいいよ」と訴えかけ、住民に「わ、じゃあコレ、やめておこうかな」という具体的なアクションを起こしてもらうことにあるならば、その対象(ターゲット)に伝わる言葉に置き換えなければいけません。
いきなり行政内部の言葉を聞かされても、相手は「へ?何語かわからん」と思ってしまい、それ以上理解しようとしません。
「世間一般には伝わらない用語をそのまま使っている」。これが、「アリバイづくり広報」の典型的な例です。手間を省く目的で、ついつい内部資料の表現をそのまま外部向けのチラシなど広報物に転用している事例が散見されますが、これではまったく広報効果がないと思ってください。
また、ホームーページにバージョン違い(要約版、概要版、パンフレット番……)で掲載しがちなPDFファイルにも、ご注意。これもいわば「内部用語」であり、一般人にはなかなか違いがイメージできません。
PDFファイルをアップする理由を「説明責任を果たすため」と耳にすることもあります。しかし本来の「説明責任」とは、「相手に理解してもらう責任」を伴うもののはずです。
相手に理解してもらうための努力をせずに、「とりあえず説明しましたよね、ハイ終了!」というのは、アリバイづくりでしかありません。
アリバイづくりのラブレターでは、愛は伝わりませんよね。