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協働のための広報 兵庫県 広報ガイドライン Hyogo Public Relations Guidelines

 

行政に広報は必要か?

 

事業を執行する役割の「行政」に、広報なんて、果たして本当に必要なのでしょうか?

この問題を考えるうえでキーワードになるのは、私たちが直面している人口急減・超高齢化社会です。

一説によると、現生人類の約20万年の歴史で「少子高齢化による人口減少」という現象に直面したのは、現代の日本が初めてだそう。つまり(20万年遡っても)「人口が増えていた時代」は過去の話であり、その成功事例はすべて、もはや通用しない局面に入ったということになります。

日本はこれからも全体として人口減のまま、高齢者の割合は増え続け、少子化により税金を納める現役世代の数は減少の一途をたどるようです。そのなかで、行政はどうやって住民サービスを維持すれば良いのでしょう?

おそらくこれからの時代は、多くの住民に「お客様」としてではなく「当事者」として行政に参加してもらうしかないのではないでしょうか。住民も企業も大学も、たくさんの人が「自分事」として、地域の未来づくりに主体的に関わっていく。いわば「協働による自治体運営」が、より一層必要になると思います。

そのためには、地域のビジョンからリスクまで、多様な人や組織と共有していかなければなりません。そこに役立つのが、“巻き込む”広報であり、“事業実現をサポートする”広報の力です。

実は、人口減少時代を迎えた現代においては、自治体にこそ広報が必要なのかもしれません。

ところで、そもそも私たちの事業主体である「自治体」って何なの?ちょっと調べてみました。

「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」(地方自治法第1条項2項)

そして「福祉」の意味は、「福」も「祉」もどちらも漢字の成り立ちに遡ると「幸せ」だそうです。

つまり「住民の人たちが、どんどん幸せになるためにサポートする」のが自治体であり、行政という仕事なのですね。

地方自治法

  1. 第一条の二 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。

地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることができてこそ、この世に存在する価値がある。逆に言うと地域の住民を幸せにできないのなら、自治の存在意義はない。そう、法律で定められていることになります。

とすると、自治体のビジョンは、必ず最後は「地域住民が幸せになる」になるはずです。農林、商業、観光、助成、イベント……すべての事業が、住民をより幸せにする目的でないなら、ウソになります。

主役は「自治体」でなく「住民」です。自治体や施設のファンづくりの先に、「それによって住民がどう幸せになるか」まで描き切ってはじめて、自治体のビジョンとして成立するのですね。

そしてその実現のため、私たちは「県職員オール広報パーソン化」という戦略をとることにしました。

担当事業を誰よりも深く理解する県職員のみなさんそれぞれが、「県はこういうビジョンを描いていて、いま自分がしているのは、誰をどういう風に幸せにする、こういう仕事です」と住民にしっかり伝える。

それによって、みなさんがまるでマグロの尾びれのように周囲の地域や社会と新しい関係性をつくり出し、うねり(海流)を生む。やがて県のことがより理解され、住民が「自分事」として主体的に地域づくりにかかわるようになり、より幸せになっていく。そういう広報戦略です。

さて、最後に質問をひとつ。もし何も知らない幼い子に「ねえ、あなたは何のために、県の仕事をしているの?」と質問されたら、どう答えますか?

ここで問われているのは、あなた自身のwhyです。まずあなたが実現したい、あなた自身の未来があるはずです。それに紐づいて、地域住民を幸せにする自治体職員としての仕事があり、いまそれぞれ担当されている事業がある。その関係性が見えていると、あなたの仕事は、住民を幸せにし、自治体の未来を拓き、そしてあなたの人生を豊かにします。

まずは、あなた自身のビジョンという大きな旗を掲げること。広報は、そこから始まります。

 

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まとめ

  1. 自治体の目的は「住民の人たちが、どんどん幸せになるためにサポートする」こと。
  2. “巻き込む広報”で、「当事者」を増やす。
  3. まずは、あなた自身のビジョンという旗を掲げる。