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更新日:2023年11月8日

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ため池と地域の暮らし

子どもたちが楽しみながらため池の自然に身近に触れられる機会も多い

兵庫県は、8,396平方キロメートルもの広い県土に、地域ごと特色ある豊かな自然を見ることができる。なかでも、特徴的なものの一つとして「ため池」が挙げられる。県内にある農業用ため池は2万 2000カ所以上。その数は日本でもっとも多く、全国のため池の約14パーセントを占める。農業用水の確保のため、先人によって造られ、いまも豊かな自然を育む水辺として地域に溶け込んでいるため池が、暮らしや産業にどう関わって来たか、その歴史をひもといてみる。

古くから暮らしに不可欠だったため池

兵庫県にため池が多いのには、地形的、気候的な理由がある。瀬戸内地方は降水量が少なく、田畑を潤し、安定して作物を収穫するためには、ため池が必要不可欠だった。兵庫県以外では、広島県、香川県、などに多く、兵庫県内では南部に特に多く見られる。規模は地域によってさまざまで、大きなものでは貯水量1,500千立方メートルを超える昭和池(加東市)や上田池(南あわじ市)などが知られている。

「水分れ鏡池」ともいわれる「千代田池」(丹波市)

馬に乗った明治天皇が休憩したことから名付けられたといわれる「馬路池」(赤穂市)

ため池の歴史が、農耕の移り変わりと深く関係していることは、その目的が農業用水であることからも想像できる。古いものでは弥生時代、稲作が行われるようになったころにはすでに存在したと考えられている。もっとも古いとされるものは、天満大池(稲美町)の原型となった岡大池で、675年に造られたと伝わっている。実に1300年以上も前から、人々はここに池を掘り、水を貯めて暮らしていた。他にも、いつ造られたか不明のもの、江戸時代と伝えられているものも少なくない。

こうして、古くから人々の生活に密接に関わってきたため池だが、その間に想像をかきたてられる神話や伝説も数々生まれ、現代まで語り継がれている。

兵庫県最大の農業用ため池「加古大池」(稲美町)

困難の連続だったため池造り

人工的に造られたため池は、時の流れを経るうちに新たな生態系を生み、人はそこにさまざま伝説を語るようになった。不思議なもの、怖いもの、切ない昔話など、その内容は多岐に渡るが、なかには築造の苦労を伝えるものも多く伝わっている。入ヶ池(稲美町北山)に伝わるのは、堤防がすぐに水に流されてなかなか完成せず困っているところ、村人の夢の中に現れた僧が「通りがかった女を人柱に」と助言し、その通りに堤防の柱とした、というものだ。

また、大杣池(神戸市北区淡河町野瀬)には、大切な牛をいけにえにして土手を築き直すという昔話が残っている。いずれも昔の人たちが切実に治水に困り、なんとかしようと苦労を重ねた様子をうかがい知ることができる。

暮らしを守るため池

ため池は、農業用水や多様な生き物を育む水辺としてだけでなく、その機能を活かした新たな役割としても期待されるようになっている。「淡路島の水瓶『ため池』治水プロジェクト」もその一つだ。台風などによる大雨の際には、古いため池が決壊し、周辺地域に浸水被害をもたらす恐れがあったが、改修することで、大雨が予想される時期に事前に水位を下げるなど、治水機能を発揮できるようになった。近年の局地的な豪雨に備え、自然との共存を図るためにも、自主防災の要としても、こうした取り組みは注目されている。

改修された山ノ神池(淡路市)

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子どもたちに分かりやすく伝える活動

人の手によって築かれたため池は、時の流れのなかで独自の自然環境を育んでいった。水辺の湿地にはヨシやガマ、オニバスをはじめとする水生植物、トノサマガエルやドジョウ、コイやメダカといった生き物のすみかとなったり、カイツブリやコサギなど多くの野鳥も飛来する。ため池に生まれた多様な生態系を守るために、自然観察会や保全活動、クリーンキャンペーンなどが積極的に行われている。

地域と協力して行うため池のかいぼり体験(明石市)

 

例えば、兵庫県を中心に活動するNPO法人「メダカのコタロー劇団」は、小学校や幼稚園に出向き、環境学習を実施している。紙芝居やクイズで子どもたちに分かりやすく農村環境を守ること、豊かな自然や楽しさなどを伝えている。その中の一つのテーマとして取り上げているのが「ため池」である。その機能や役割だけでなく、外来生物のこと、ため池に行くときの注意点といったことにも触れ、ため池がそこにある意味や大切さ、地域の自然を子どものうちから知ってもらいたいというのが狙いだ。
他にも県内には、多様な自然環境を学んだり保全活動をしたりするほか、レジャースポットとして活用する例もあり、県民がため池とふれあう裾野は広がっている。

子どもたちにため池のこと、保護の大切さを伝える活動

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いなみ野ため池ミュージアム

東播磨地域とその周辺に広がる「ため池群と水路網」は日本有数の水利ネットワークとして、文化庁の「文化的景観180カ所」や地球環境関西フォーラムの「関西の風景100選」にも選定されている。
「いなみ野ため池ミュージアム」は、ため池や用水路、分水設備といった歴史的な水利遺構や、水辺の生き物など、地域の貴重な水辺空間を次世代へ引き継ぐために発足した。住民の参画と協働のもと、ため池周辺を中心とした地域の魅力いっぱいの地域づくりを目指している。

資料館ではため池の歴史や写真等が見られるほか、ため池を知るための講座や体験学習、が開催されており、ため池の構造や周辺の自然などについて学ぶことができる。また、ロゲイニングやSUP体験など、ため池を拠点としたさまざまな楽しみ方も紹介している。

「いなみ野ため池ミュージアム」(SUP体験教室、ロゲイニング、環境学習)

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