世界農業遺産・日本農業遺産
世界農業遺産及び日本農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープ(※1)及びシースケープ(※2)、農業生物多様性(※3)などが相互に関連して一体となった、将来に受け継がれるべき重要な農林水産業システムを国際連合食糧農業機構(FAO)が認定する制度です。
- ランドスケープ:土地の上に農林水産業の営みを展開し、それが呈する一つの地域的まとまり
- シースケープ:里海であり、沿岸海域で行われる漁業や養殖業等によって形成されるもの
- 農業生物多様性:食料及び農業と関わりのある生物多様性及び遺伝資源が豊富であること
(出典:農林水産省HP(外部サイトへリンク))
兵庫県の認定状況
人と牛が共生する美方地域の伝統的但馬牛飼育システム(兵庫美方地域)
【日本農業遺産(平成31年認定)、世界農業遺産(令和5年認定)】
美方郡の集落は山間部の谷筋にあり、水田面積が小さく積雪が多いため、冬季の出稼ぎ、但馬牛飼育、米作りが農家の生活を支えてきました。
美方郡産但馬牛は、地域産の良質な草を与えられ、山に放牧され、棚田に使役されながら家族同様に大切にされてきました。生産された子牛は農家の重要な収入源であり、古くは嘉永2年(1849年)に子牛市を開設した記録があります。明治30年(1897年)頃に全国に先駆けて「牛籍簿」が整備され、これが血統登録の基礎となり、全国の和牛改良の先頭に立つ地域となりました。
美方郡では全国の黒毛和種で唯一、郡内産にこだわった改良を続けてきた結果、世界でもここにしかない独自の遺伝資源が保全され、黒毛和種の遺伝的多様性の維持に大きな役割を果たしています。
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丹波篠山の黒大豆栽培~ムラが支える優良種子と家族農業~(丹波篠山地域)
【日本農業遺産(令和3年認定)】
丹波篠山地域では、水不足のため稲作をしない「犠牲田」を集落で協力し合いながら設け、そこで黒大豆栽培が始まりました。当時、丹波篠山の多くの水田が過湿・重粘土な湿田で、これを乾田化することは技術的に困難でしたが、溝を掘り、畝を高くすることで、黒大豆栽培を可能にしました。(乾田高畝栽培技術)
豪農大庄屋波部本次郎らによって在来種(多様な遺伝資源)の中から優良な種子を選抜育種し、現在では採種ほ場を分散設置するなど持続的に優良な種子を生産しています。(優良種子生産方式)
水の少ない丹波篠山地域では、多くのため池が築造されたことで希少な両生類などが生息しています。また、灰小屋で粗朶(そだ)や落ち葉を焼いて作る灰肥料が用いられるなど、農の営みの中で自然環境が守られています。(自然循環システム)
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南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム(南あわじ地域)
【日本農業遺産(令和3年認定)】
水と土地に限りがある兵庫県南あわじ地域では、律令時代から開墾とため池などの灌漑施設の整備が進みました。特に江戸時代以降の新田開発にともない灌漑の高度化が進み、ため池、河川、用水路といった表層水と、湧水、深井戸、浅井戸、横井戸といった地下水を組み合わせる灌漑システムが構築されました。また、これらの灌漑施設の管理運用は「田主(たず)」と呼ばれる組織が社会組織化され、新田開発などにより発展してきた水稲作の上に、1880年代に加えられたのが、たまねぎ栽培です。ほぼ同時期に、役用牛から畜産(酪農)への転換が進められました。
この結果、高度に発達した水利システムを基盤として、初夏から秋にかけて稲作を行い、その後、秋から春にかけてたまねぎを栽培します。同時に稲わらを畜産に利用し、牛ふん堆肥を砂礫の多い農地に土壌改良としてすき込みます。これにより、畑地雑草や病害虫を抑制させ、たまねぎの連作を可能とする生産循環システムが確立されました。
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