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年末は、前年に引き続き寒波襲来で雪が舞う寒い日々が続きました。丹波の里山が薄っすらと雪化粧しているのを見て、本格的な冬到来を実感しました。この冬の里山をみて、こんな寒い時にも狩猟や炭焼き、柴刈りに里山に分け入っていた昔の人の暮らしに想いを馳せ、『丹波里山文化物語~丹波のくらしは里山とともに~(外部サイトへリンク)』(丹波市環境課)を改めて読んでみました。かつての里山暮らしの生の体験談であるこの冊子からは、丹波の里山文化の豊かさを再認識することができました(皆さんにも一読をお勧めします)。新年最初の本メッセージでは、この「里山」をテーマにお話してみたいと思います。
ご承知のように、丹波の里山は里地と一体となって日本の原風景的な美しい景観を形成しています。深山がなく、緩やかな地形が拡がる丹波地域自体を一つの里山とみなすこともできるでしょう。日本海側、太平洋側の生き物が共存する、生物多様性に富んだ空間としても、丹波の里山は貴重です。また、丹波は地域固有の里山文化がしっかりと根づいていた地でもあります。要するに、丹波の里山は丹波のアイデンティティの重要な構成要素といってよいでしょう。
この丹波の里山の価値を再認識し、これを次の世代へと繋いでいく取組を推進していこうと、丹波の森づくり30周年にあたる2018(平成30)年、県民局、丹波篠山市、丹波市、(公財)丹波の森協会の4者で「丹波の里山づくり促進事業実行委員会」(以下「委員会」)を設置し、同事業を推進してきました。
丹波の里山づくり促進事業では、里山づくりの学習、発信、体験のために様々な取組が進められています。学習に関しては、里山の保全・育成を地域住民が主体となって進めることができるよう、「里山育成研修会」を開催しています。その内容は、里山の環境、生態系の学習、里山林整備の知識習得、加工場の見学、グリーンウッドワーク※体験など多岐にわたっています。2021(令和3)年度は5回開催し、のべ97人が参加しています。
※森から伐採したばかりの乾燥していない生木を斧やナイフ、伝統的な手工具を使い、割ったり削ったりしながら小物(スプーンなど)や家具をつくるものづくりで、里山資源の有効活用になります。
里山研修会の模様(丹波篠山市川阪) グリーンウッドワーク体験(丹波年輪の里)
発信面では、里山づくりの普及啓発ビデオ(外部サイトへリンク)、ニュースレター(森のかわら版)の作成にあたっているほか、丹波地域らしい里山づくりに取り組む意欲ある活動団体をモデル団体に認定し、その活動を広く発信しています(現在10団体を認定)。また委員会では、各団体に対しアドバイザーを派遣し、現地調査・ヒアリング・ワークショップにより、モデル団体の中長期計画の策定や情報発信等を支援しています。
モデル団体の活動(平松区森林愛好会)(丹波市春日町)
体験面では、丹波の里山づくり活動の一環としての「木の駅プロジェクト※」への参加者拡大を目的に、「チェーンソー安全講習会」(3回開催 23名受講)や間伐、林内作業、木材搬出等の「実技研修・交流会」(12回・延べ132名参加)を開催し、人材育成にあたっています。
※住民等が自ら山の木を伐採し「木の駅(集積場所)」に出荷すれば、プロジェクトの事業主体が現金と地域通貨で買い取り、薪等として販売し、その収益を地域の森林整備に活かす取組。丹波篠山市、丹波市それぞれにプロジェクトを運営する木の駅実行委員会がある。
間伐材の搬入風景(木の駅プロジェクト)(丹波市)
<モデル団体一覧>
・森の学び舎プロジェクト(丹波篠山市西谷) |
・岩崎自治会(丹波篠山市岩崎) |
・上板井自治会(丹波篠山市上板井) |
・八幡共有山組合(丹波篠山市大沢) |
・生郷里山づくり懇話会(丹波市氷上町石生) |
・北岡本自治会(丹波市市島町北岡本) |
・下三井庄自治会(丹波市春日町下三井庄) |
・(特)バイオマスフォーラムたんば(丹波市氷上町谷村) |
・平松区森林愛好会(丹波市春日町平松) |
・ふるさと和田里山づくり協会(丹波市山南町和田) |
昨年度末に策定した「丹波2050地域ビジョン」では、この里山づくりの事業に「アクティブフォレスト・プロジェクト」という名称を冠し、ビジョン実現に向けた12のシンボル・プロジェクトの1つに位置づけ、そのさらなる推進を図ろうとしています。「アクティブ・フォレスト」という名称は、里山づくりが活発になることと、里山が人々の暮らしの中で活発に使われるようになることを期待して付けられました。
このアクティブフォレスト・プロジェクトでは、多様な主体の連携のもと、住民参加型の様々な里山づくり活動を推進するとともに、里山情報の発信を強化し、その見える化を図り、里山に入る人を増やしていくことをめざしています。
その背景には、いうまでもなく、里山づくりの担い手不足が存在しています。令和3年度に委員会事業(里山育成研修会、チェーンソー安全講習会、実技研修・交流会等)への参加者にアンケートを実施したところ、活動者の課題としては、「技術」、「経費」などとともに、「人が集まらない」との回答が上位を占めていました(図1参照)。
現在の活動の中心は、60 代以上であり、「担い手不足」と「高齢化」の課題として顕在化していました。その一方で、20~30 代の若年層の参加割合が低く、世代間で里山づくりの意識に乖離があることがうかがえました(なお、この調査からは、事業に参加した里山づくり活動の未体験者(全体の52%)のうち、半数(26%)が事業(参加)後活動に携わっていると回答しており、事業が参加者拡大に一定の効果があったこともわかりました(図2参照))。
こうした現状を踏まえると、里山に接する地元(里地)の人だけでは里山づくりを継承していくことは将来困難になると思われます。街中に住む人も、丹波外の人々(関係人口)にも、里山づくりに参画いただくことが、活動継続・発展の鍵になると思われます。
このため、令和4年度からは、丹波の里山づくりの情報発信力を強化し、里地以外の人々にも積極的に情報を届けるべく、ワンストップ窓口となる「里山ポータルサイト(仮称)」の構築にあたろうとしています。
ポータルサイトでは、講座案内やイベント・ツアー情報を発信するだけでなく、経験豊かなアドバイザーが里山づくり活動について助言を行う相談窓口も設ける予定です。また、担い手の募集・受付や資材・機材の斡旋・調達なども、その場を通じて行えるようになります。さらに、関係人口との交流、連携の場としての活用も想定しています。
また、委員会では里山に入る人を増やすべく、様々な人が楽しみ、学ぶことのできる滞在・体験プログラムの開発も進めようとしています。その一環として、10月には旅行事業関係者、外国人を対象としたファムトリップ(試行的体験旅行)を実施し、参加者に丹波市春日町野村の「まきんこの森」で、間伐やアロマオイルづくりを体験いただきました。当日の参加者からは、「里山づくり体験を気候変動対策の啓発の一環としてPRすればよい」といった声や「教育旅行や修学旅行に利用したい」といった意見が寄せられ、プログラムの可能性を感じとることができました。
ファムトリップの模様(間伐体験)
ファムトリップの模様(アロマオイルづくり体験)
今後、プログラムの充実に向け、間伐、植林、竹林整備、広葉樹林整備など里山整備をビジターが常時体験できる体制・仕組みの整備を進めます、また、薪割、山菜狩り、ツリーハウスづくり、グリーウッドワーク、竹パウダーづくり、アロマオイルづくり、きのこ栽培、木質ペレット製造・バイオマス発電所見学など、里山の資源を活かした多種多様なコト体験のメニュー開発にあたります。さらに、里山空間にて自然体験・生物観察・環境学習を行うサステイナブル・ツアー(エコツアー)の開発とそのガイド育成(ネイチャーガイド)にも取り組んでいきたいと考えています。
このほかプログラムでは、里山に隣接した里地の農家民宿での食事(郷土料理・ジビエ)や宿泊を組み込んだメニューの開発にもあたります。今後、農家民宿は周辺の里山へ出かけられる様々なツアー(マイクロツーリズム)の発着地、ハブとしての役割を担うことを期待されています。
こうした現在の検討をもとに、12月、委員会では『丹波の里山(SATOYAMA)体験』を大阪・関西万博時に万博訪問客を県内に誘う「ひょうごフィールドパビリオン」(SDGs体験型地域プログラム)に申請しました(採択の可否は2月頃公表)。万博期間中、里山整備活動や里山資源を活用する里山コト体験とあわせて、里山の文化・歴史・課題を学ぶプログラムを提供し、国内外から多くの人を丹波の里山に誘いたいと考えています。
里山づくりは、丹波だけの問題でなく、普遍的な課題であります。昭和初期からの燃料革命による化石燃料の使用により、薪炭や肥料が必要なくなると、元々その採取源として利用されてきた各地の里山も放置され、現在に至っています。今後、SDGsや地域循環共生圏※などの考え方を踏まえ、21世紀という時代に相応しい新たな里山利用のあり方について検討していく必要があります。そのような議論を行うワークショップなども、フィールパビリオンのイベントとして催したいと思っています。
※各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方(環境省HP)。
一方、今世界各国では、気候変動の要因となる化石燃料の大量消費に伴うCO2の排出削減に積極的に取り組もうとしています。CO2吸収源としての里山林の整備や里山の木質バイオマスの活用促進は、世界の人々にとっても大きな関心事項であり、万博時のプログラムには、海外からもたくさんの人が参加してくれるものと期待しています。
木質バイオマス発電施設(丹波市)
万博開催時には、「森の国際会議」を開催することも検討しています。過去1993年、2001年に森林文化等をテーマとした国際会議を開催した実績がありますが、今回も前回、前々回招聘したウィーンの森、シュバルツバルト(黒い森)、バイエルンの森、フォンテーヌブローの森等の代表者を招聘し、次世代の森・里山の保全・活用について知見を交換・共有したいと考えています。
丹波の森・国際井戸端会議(2001.11.5~11.9)
「丹波2050地域ビジョン」では、『人と技術の力を活かした、自然の中での多彩な暮らしのカタチの創造・発信』を基本理念に謳い、その将来像において、丹波の原風景的な里山景観がそのまま残り続け、憩いの場や暮らしの場としての里山の利用が拡大している様を描いています。県民局・委員会では、持続可能な「里山のある暮らし」が実現するよう、これからも多様な主体との連携のもと、長期的視野に立って、里山づくり活動の発展を継続的に支援してまいります。
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新型コロナの新規感染者数の増加傾向が続いており、季節性インフルエンザとの同時流行も懸念されています。基本的な感染対策の徹底やワクチン接種のほか、旅行の際には検査キットや無料検査場の積極的な活用をお願いします。
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