更新日:2026年3月5日
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【主な経歴】
東京女子医科大学卒 医学博士
日本泌尿器科学会指導医・専門医
東京農業大学客員教授
International Society of Nature and Forest Medicine (INFOM) 会長
女性で初めてアルプス三大北壁※に登頂(※アイガー、グランド・ジョラス、マッターホルン)
山岳小説・新田次郎著「銀嶺の人」のモデル
学生時代から、私はクライミングに没頭していました。女性にクライミングは不向きという当時の風潮の中、医師としての勤務の傍ら、女性同士でマッターホルンに登頂しました。ここから、欧州の岩場の魅力に取りつかれ、様々な岩壁登攀へのチャレンジが始まりました。この頃、ヨーロッパではちょうど環境問題が注目されており、私も自然について勉強するようになります。

すると、森林はまるで動物の“保護者”で、動物の中でも人間だけが親に反抗する“問題児”のようだと感じました。森林は動物が生きるのに必要な酸素を生み出し、動物の住処となり食物を提供してくれる。もちろん、人間もその恩恵を受けています。森林が地球を覆っているおかげで、夏は涼しく、冬は暖かく地球の気候が保たれているのです。そんな恩恵を受けている森林を、世界では乱獲し、日本では手入れせず放置されている。まさに人間は、自然のなかの“問題児”だと思いませんか?
「地球温暖化を防ぐには、森林を増やさないといけない。」そう思って、気候変動に関する COPなどにも参加しましたが、責任の押し付け合いがなされるだけのように見えました。本当に温暖化を防ぐには自ら動かないといけないと、そのとき強く実感したのです。
そこで、実際に自ら植栽をし、森林を増やす活動を始めました。すると、日本の森林率は、フィンランド、スウェーデンに次ぐ3位で、すでに森林は十分にある。人口は世界の中で11位であるにも関わらず、森林がこんなに残っているのは、とても素晴らしい環境だと気づいたのです。しかし、当時の日本は高度経済成長期。林業が衰退しかけていて、十分に管理されず間伐されないまま放置される森林が増えていました。どうしたものかと悩んでいるときに、“森林浴”という考え方に出会いました。
“森林浴”は、森林を木材生産の場として活用するだけでなく、その空間自体に価値を見出すもの。“森林浴”を広めることで、森林を手入れして、伐採し、また植栽するという循環の必要性がもっと認識されるのではと考えました。しかし、当時は科学的にその効果が検証されておらず、なかなか受け入れられませんでした。

その後、森林の科学的な効果が研究されるようになり、現・千葉大学の宮崎教授が1990年に森林浴の医科学的効果の証明に成功。そして“森林セラピー(R)”という名称が誕生しました。“森林セラピー(R)”は、ストレス軽減や免疫力の向上など人の健康にいい影響を与えるため、医師としてもぜひ研究・実践を進めていきたい活動でした。
そんな折、兵庫県で森林大学校が創設されることになり、ぜひ講師として“森林セラピー(R)”を教えてくれないかと話がありました。これは面白そう!と、すぐに引き受けました。“森林セラピー(R)”の科学的根拠となる森林医学は新しい分野なので、毎年新しい研究結果が報告されます。大学校では、その成果を毎年更新して最新の情報に基づき授業を行っています。

日本人は、春に芽吹き、秋に紅葉し、冬に枯れ落ちる落葉広葉樹を好む傾向がありますが、実は“森林セラピー(R)”で最も効果が高いのは、スギ・ヒノキを含む針葉樹林なのです。日本人が植えた人工林は、海外の方が見ると、きれいに整列して植えられており、とても美しいと感じるようです。学生の皆さんにはまず針葉樹林を好きになってほしい。そして、世界的に見ても素晴らしい日本の林業技術を、海外にも伝えていけるような学生が育てばいいなぁとひそかに思いながら授業をしています。
また、“森林セラピー(R)”の授業では、講義だけでなく実習も行います。それは、五感をフルに活用して学習することが、人にとって一番効果的だからです。人間が五感から受け取る情報のうち、視覚からの情報が約8割、聴覚が約1割、残りは嗅覚や触覚、味覚です。野外で実際に見て、聞いて、触って、匂いを嗅ぐことで、五感をフル活用させることができる。そうやって学んだことは、ただ耳で聞いて覚えたことより何倍も理解できます。
大学校ではこれからも、自然の中で五感のすべてを使って学んでもらいます。木を伐って植栽して育てるという林業活動と、ひとが森林の価値に気づく"森林セラピー(R)"を掛け合わせて、森林の活用方法を広く考え、地球全体のことも考えられる、そんな人が育つよう、学生のみなさんに向き合い続けます。ぜひ、自然の中で一緒に学びましょう!