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沢松奈生子さん
元プロテニスプレーヤー
観客席から聞こえた「沢松、諦めるな!」。
現役時代、印象的なエールが2つあって、ひとつは「形のあるエール」、もうひとつが「形のないエール」なんです。「形のあるエール」っていうのは、選手にはよくある話かもしれないんですが、ウィンブルドンで試合をした時に観客からいただいたエールで。ウィンブルドンはテニスの四大大会の中でも一番観客とコートが近くて、エールどころか「沢松、今日調子悪いな」とかの話し声も聞こえちゃう。そのウィンブルドンで、「もう今日あかんかな」って一瞬頭をよぎった試合があったんです。ファーストセットを落として、セカンドセットも劣勢で。その時に「沢松諦めるな!」って聞こえてきて。「観客の方が諦めてないのに自分が諦めたらあかんわ」ってはっとして、気持ちを取り直してなんとか挽回して勝てた試合があったんです。エールで負け試合をひっくり返すことはあるんだなと改めて感じたエールでした。
阪神・淡路大震災の真っ只中にある地元へエールを送るつもりが。
「形のないエール」は全豪オープンの時。向こうにいる時に阪神・淡路大震災が起こったんです。毎日ニュースの映像を見て、自分が育った街がこんな悲惨なことになってるんだっていうのを知ってすごくショックで。自分の家族含め地元の人たちが大変な目に遭っているときにスポーツをしている場合じゃない、棄権して帰国しよう、そう思って関東に住んでいる叔母に電話したら「あなたがそこで頑張ることでどれだけ多くの人たちに勇気を与えられるか計り知れない。あなたにできることをしなさい」と言われて。悩んだ末、続けることを選びました。とはいえやっぱり心配で日々眠れない、食べられない。体調は絶不調で挑んだ試合で、ほんとに今でも不思議なんですが、どこからか「できる」っていう声を感じて気持ちが前に向いたり、何かに押されたように身体が動いていつもは取れないショットが取れた。終わってみれば結果はテニス人生最高のグランドスラムベスト8でした。自分のプレイで地元にエールを送るつもりだったけど、誰かのためにっていう思いでプレイしたことで、逆に私の方がエールをいただいたような感じで。そんな経験は人生で初めてでした。
自分の子どものテニスを応援する側になって思ったことでもあるんですけど、形があってもなくても、エールを送る時って対価を求めてないものなんだなって。そういうエールに支えられてきたんだと改めて思います。
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