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9月中盤まではまだまだ残暑厳しい日々が続いていましたが、台風14号が過ぎ去る頃には気温も下がりはじめ、秋めいた気候となってきました。
秋の到来とともに、丹波の農村では秋の味覚の代表格である丹波栗の収穫がピークを迎えています。今年は一部で台風による落果があったものの、全体としては平年並みの収穫量が見込まれています。10月に解禁を迎える丹波黒大豆の枝豆は順調に生育しており、平年を上回る収穫量が期待されています。今年も道端の直売所で黒枝豆を買い求める訪問客で丹波は賑わいをみせることでしょう。
こうしたブランド農産物を生み出し、固有の景観を創り上げてきた丹波の農村集落ですが、将来を見通すとその存続が危ぶまれています。人口減少・高齢化が続くなか、丹波地域でも小規模集落(世帯数50世帯未満、高齢化率40%以上)の数が、この10年あまりで4倍以上に増加しています。農村集落の保全に向け、対策待ったなしの状況となっています。
兵庫県では、昨年度将来が危ぶまれる小規模集落の現状を把握するため、地域再生大作戦未実施集落を対象に調査を実施しました。調査対象となった637集落のうち、2割弱が丹波地域の集落です(丹波地域調査対象:121集落、調査実施:93集落)。この調査報告書をみると、集落の元気度が4段階で示されていますが、丹波地域は元気度が最も高い4の評価(「とても元気」)を得た集落が全体の20%にのぼり、県平均の8%を大きく上回っています。
この集落元気度という指標は、①内発的発展性(内発性、多様性、持続性)、②取組意欲、③集落機能の健全性という3つの項目からなっています(下表参照)。丹波地域は、いずれの項目でも、最も高い4の評価を得ている集落の割合が他地域よりも高く、将来への可能性という点でいささかなりとも希望を見出せる結果となりました。
表 元気度等4 指標一覧
元気度 | 下記①、②、③の平均値 |
①内発発展性 | 内発性:集落の今後を話し合う場や外部人材の受け入れや勉強会の実施(区長ヒアリング) |
多様性:女性・若者の参画や移住者受け入れの意向(区長ヒアリング) | |
持続性:地域活動の担い手や役員への役割集中の有無(区長ヒアリング) | |
②取組意欲度 | 集落への居住意向、集落存続への意思、活性化の取組意向(区長ヒアリング+住民アンケート) |
③機能健全度 | 資源管理機能:1世帯当り実働人口、農地の荒廃率、共同活動回数(客観的数値) |
コミュニティ機能:寄り合い回数、行事数、団体数(客観的数値) |
(出典:三宅康成(2022)「地域再生大作戦 未実施集落元気度調査分析(最終報告)」p.2)
小規模集落調査については、管内2市とも独自に分析を行い、今後の集落対策の課題を整理しています(一部独自調査も実施)。丹波篠山市が全小規模集落(78集落・自治会)を対象にしたのに対し、丹波市は青垣町と氷上町の一部地域での調査(計15集落・自治会)でしたが、指摘された課題は概ね共通しています。
そこで、共通して挙げられた課題の1つが、自治会等の負担軽減です。人口減少・高齢化に伴い自治会や集落の役の維持に困っている集落が現れていることから、自治会等の組織・役の見直しが急務とされています。また、近隣自治会間の機能連携(ヨコの連携)や自治協議会等による自治会補完(タテの連携)の検討の必要性も指摘されています。
2つ目が農地・山林・空き家等の管理です。住民や自治会等だけでは管理が困難になってきている状況が指摘されています。そして、農地・里山の維持管理、地域の共同活動等の維持に向け、外部人材(関係人口)活用の仕組みづくりや外部人材等が課題解決に向け起業しやすい環境整備の必要性が謳われています。
農地維持活動(水路の泥上げ)(丹波市)
3つ目が生活利便性の確保です。特に指摘されているのが、高齢者等の足の確保、移動支援(買い物支援、通院支援)の問題です。このほか、高齢者等の見守り・健康管理、災害対応なども、課題として取り上げられています。
こうした集落の課題解決に向け、まず取り組まなければならないのがやはり担い手の確保であります。移住・環流対策等を通じて、移住者の増加(定住人口の減少抑制)と関係人口の拡大に取り組む必要があります。
丹波地域では、これまで4つの地区(丹波篠山市福住・大芋地区、丹波市神楽・佐治地区)で地域再生大作戦のメニューの1つである「戦略的移住推進事業」を活用して、移住コーディネーターの配置、空き家調査、お試し住宅の整備等を行い、移住者の増加につなげています。令和3年度の丹波地域への移住者総数は、369名にのぼり過去最高を記録しましたが、こうした地区・集落単位の移住促進の取組も全体実績の向上に少なからず寄与しています。
お試し住宅の整備(丹波市青垣町佐治地区)
また、関係人口の拡大には、コト体験メニューの開発支援やマイクロツーリズム(近場観光)の促進、農家民宿の整備・ネットワーク化支援など、観光・農林業施策を通じても取り組んでいます。今後は、様々な施策を活用して、ワーケーション※1需要なども積極的に取り込みながら、集落への関係人口のさらなる拡大を図ってまいります。
※1 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。テレワーク等を活用し、観光地やリゾート地、温泉地等、普段の職場とは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行うこと
都市住宅の農村体験(丹波市春日町大路地区)
こうした取組を総合的に推進するため、「丹波2050地域ビジョン」では、シンボルプロジェクトの1つとして「たんばスタイル(たんば暮らし)・プロジェクト」の推進を謳っています。このプロジェクトでは、集落・地区単位できめ細かく移住情報等の発信にあたります。また、集落の担い手創出に向け、「ジョブ型移住」を推進することとし、ボランティア、インターンでのしごと体験から副業・兼業、雇用就業、起業・継業まで、きめ細かく地域のしごと情報を提供し、マッチングを進めます。このほか、集落・地区の農家民宿やゲストハウス※2、まちづくり施設等を情報・交流拠点、しごと体験・農業体験ツアーの発着基地に位置づけ、関係人口の拡大につながる活動を後押しすることにしています。
※2共有スペースで宿泊者同士やスタッフなどとの交流が楽しめる簡易宿泊施設
空き家を活用した交流拠点(村の駅真南条:丹波篠山市) 移住希望者の体験活動(まちのインターン:丹波市)
一方、集落対策では、人手をかけずとも持続可能な地域づくりの推進、すなわち地域運営の効率化を図ることも重要となっています。両市の分析結果に記されている通り、集落間連携の推進など従来の仕組み・制度の刷新を図ることが必要となっています。また、関係人口等が集落(空き家)、農地、里山等の空間・ストック管理や集落運営に参画しやすい新たな仕組みの構築も期待されています。
こうした仕組み刷新を促進し、集落を活性化するため、「丹波2050地域ビジョン」では、「持続可能なコミュニティ・プロジェクト」をうち出し、シンボルプロジェクトの1つに位置づけています。このプロジェクトでは、モデルコミュニティにおいて関係人口等多様な人材を受け入れることのできる新たなコミュニティ・ルールの形成を進めます。また、空間・ストックを有効活用し、コト体験、体験型農業等新たな事業・サービスの創出にも取り組むこととしています。県民局では、近日中にプロジェクトチームを立ち上げ、「地域再生活動の次世代への承継事業」を拡充して、この事業を進めてまいります。
また、地域運営の効率化に向けては、デジタル技術の活用も大きな課題と捉えています。省力化・自動化技術の導入によって人手不足を補うとともに、データ、情報の共有化により、人材、ストックの有効活用やサービスの効率的運用が可能になると考えています。
県民局では、この集落でのデジタル技術の活用を推進するため、「丹波2050地域ビジョン」のシンボルプロジェクトである「スマートコミュニティ・プロジェクト」において、暮らしやすい地域社会の実現に向けたスマート技術導入のあり方について研究会を開催し検討を進めています(8月4日第1回研究会開催)。
今年度は、デジタル・ガバナンス(仮想空間を介した地域・組織運営)をテーマに、電子市民が参画する仮想コミュニティ(メタバース※3等)のあり方について研究を行うほか、自家用有償旅客運送※4のスマート化など移動支援についても検討します。また、共有経済(シェアリング・エコノミー※5)をテーマに、地域アプリの開発や地域電子通貨・ポイントの発行、Local MaaS※6の運用等について議論を行います。来年度以降は、研究会での提案をもとに、モデルコミュニティでスマート技術の実証実験を行い、技術導入の可能性、効果を探ってまいります。
※3インターネット上に構築された他者とのコミュニケーションが可能な3次元の仮想空間やそのサービス
※4バス・タクシー事業が成り立たない場合であって、地域における輸送手段の確保が必要な場合に、必要な安全上の措置をとった上で、市町村やNPO法人等が、自家用車を用いて提供する運送サービス
※5個人等が保有する空間やモノ、移動手段、知識・スキルなどの資産を、インターネットを介して他の個人等も利用できるようにする仕組み
※6公共交通を含む複数の移動関連サービスを連携させ、検索・予約・決済等を一括で行なうサービス。Mobility as a Serviceの略
農村集落は、丹波地域のアイデンティティそのものであります。そこでは、古来より丹波らしい暮らし、文化、生業、景観が育まれてきました。このため、人口減少下にあっても、農村集落の持続的発展に向け様々な可能性を探っていかねばなりません。これからも、県民局では移住・環流対策をはじめ、産業、観光、農林業、地域保健・福祉、スマート化等様々な分野の施策を動員して、集落対策に総合的、持続的に取り組んでまいります。
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新型コロナの新規感染者数は、減少傾向にあるものの依然高い水準にあり、まだ油断は禁物です。基本的な感染対策の徹底のほか、積極的なワクチン接種等により、安全安心な秋の行楽シーズンを過ごしましょう。
重症化リスクの高い方を守るため、9月26日(月)から、全国一律で保健医療体制の重点化が開始されました。これに伴い、本県でも新たな療養者支援制度を創設しましたので、ご協力をお願いします。
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