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月初めに夏日、真夏日が続く異例の10月でしたが、中盤以降、一転して気温が下がり、あっという間に秋めいてきました。この秋の深まりとともに、丹波には、丹波栗、丹波黒大豆など、秋の味覚を味わおうと、域外から大勢の観光客がやって来られています。紅葉狩りが最盛期となる11月も、例年以上の賑わいとなることを期待しています。
近年、近場観光のホットスポットとなりつつある丹波ですが、移住・定住先としても今注目を集めています。実際、昨年度の移住相談件数や移住者数は大幅に増えています(局長メッセージ7月号参照)。そして、移住者数の増加とともに課題となっているのが、物件の確保です。移住者に人気の古民家(のうち即入居可能な)物件は払底しつつあります。場所によっては、移住希望者が空き家を購入するには、何年か待たなくてはならない状況が生じています。
そんななか登場したのが、「丹波篠山の家」モデルハウスです。丹波篠山の気候風土・文化に合った健康的で住みよい住宅の建設を促進するため、市では意匠や色彩、材料などの基準(「丹波篠山の家」認定基準)(外部サイトへリンク)を定め、その基準を満たす住宅の建築主(建売住宅の場合は購入者)に建築費を補助(70万~最大130万円)(外部サイトへリンク)しています。実際にその基準を形にしてイメージできるようにと、ハートピア北条団地内(丹波篠山市細工所)にモデルハウスが建築され、先日一般公開されました。
モデルハウス外観・内装
私もモデルハウスを訪問しましたが、その際一番印象に残ったのは、床、天井、柱、壁、階段、窓枠などにふんだんに使用されている木が醸し出すぬくもりと安心感です。ヒノキなどの木の匂いが心地よく、とてもリラックスすることができました。聞くと、使用されている木材の62%が丹波篠山産(その他14%が県産材)だそうで、まさに地産地消を実践されています。
デザインや施工、素材にも丹波篠山らしさがふんだんにみてとれました。屋根は切妻・和瓦葺き、外壁は漆喰や焼杉板、玄関軒先には下屋(げや)※1と、丹波篠山の伝統的な建築手法が採用されています。また、塀には丹波鉄平石※2、土間には丹波三和土(たたき)※3が用いられ、トイレには日本六古窯の一つである丹波焼が手洗器として採用されるなど、丹波篠山ブランドがそこかしこに取り入れられています。
下屋(げや)※1
母屋(おもや)から差しかけて作られた小屋根のこと(その下に柱または壁を有する)。季節ごとの太陽の傾きを考慮し、夏は暑い直射日光を遮り、冬は暖かい日差しを室内まで取込む役割があります。
丹波鉄平石 ※2
丹波地域で産出される品のある石。赤褐色から茶褐色といった表面の渋さが好まれ、昔から茶庭園路の張り石や飛び石に利用されてきました。
丹波三和土(たたき) ※3
丹波の土に消石灰、にがりを混ぜたものを床に塗り、たたき固めたもの。三種類の材料を練り合わせることから「三和土」と書きます。漆喰のような趣で土間の床に使われます。
「丹波篠山の家」のルールづくりや、モデルハウスの設計・施工にあたっては、官民のプロジェクトチームが結成されたそうです。チームを構成するのは、篠山若手工務店の会(住倶楽部(すくらむ))、篠山市建築組合、篠山木材協同組合、それに丹波篠山市創造都市課、地域計画課です。ルールづくりから携わり、モデルハウスの設計を担当した大前裕樹(株)一葉建築設計事務所社長は、ル-ルの厳格な部分と緩和する部分の線引きが大変だったものの、その議論がとても楽しかったと語っておられます。また、モデルハウス建設にあたっては、丹波篠山の街並みに調和する色調を採用する一方で、伝統的なデザインをモダンと感じてもらうような工夫をされたそうです。伝統と革新の共存といったところでしょうか。
大前 裕樹(おおまえ ひろき) (株)一葉建築設計事務所社長
木材調達を担当した篠山木材協同組合の小谷真巳理事長、藤本清仁副理事長にお話を伺うと、経済性重視の風潮のなか、丹波篠山産材を使い、地域の伝統、文化にこだわったモデルハウスを建てることの意義を強調されていました。また、今後は山で仕事をしている人(林業従事者)やIターンの家具職人も、プロジェクトチームに加わってもらいたいとお話をされていました。今後は、プロヘジェクトへの住民参加の仕組みも考えたいそうです。一方、篠山木材協同組合からは、今後の課題も提起されました。今回は、一棟だけだったので木材調達は対応可能だったそうですが、複数の「丹波篠山の家」を建設するとなると、現状丹波篠山産木材の安定供給は難しく、今後体制整備(木材加工、製材、乾燥施設の整備等)が必要とのことでした。地元産木材利用(地産地消)の拡大は、森の循環利用を促進し、循環型地域経済の構築に寄与します。また、輸送にかかるCO2削減にも貢献します。その意義、可能性を考えると、地産地消の体制整備のハードルは低くはないものの、将来に向け地域全体でチャンレジしていくべき課題であります。
篠山木材協同組合
小谷 真巳(こたに まさみ)理事長(写真・中)
藤本 清仁(ふじもと きよひと)副理事長(写真・左)
話を需要者サイドに移すと、「丹波篠山の家」のターゲットは、30~40代の子育て世代だそうです。移住者の購入も想定しているとのことでした。
確かに、子育てするにあたっては、昔の住宅よりも現代の基準で設計された「丹波篠山の家」の方が相応しいかもしれません。丹波篠山らしさが溢れつつも、リーズナブルな価格で建設可能な「丹波篠山の家」の登場は、子育て世代の移住希望者に新たな選択肢を与えることになるでしょう。
今後、瓦葺きで、黒・灰色系の色彩を基調とした「丹波篠山の家」の建設が進むことで、新しくも懐かしい街並み景観、田園景観が生まれてくるでしょう。機能性、快適性、地域性に富んだ「丹波篠山の家」の出現が、まちに新たな息吹を吹き込み、地域のブランド価値向上につながることを期待しています。
(謝辞) 取材にご協力いただきました(株)一葉建築設計事務所の大前裕樹社長、篠山木材協同組合の小谷真巳理事長、藤本清仁副理事長、丹波篠山市山下地域計画課長には、この場を借りて、改めて感謝の意を表させていただきます。
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