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先日、線香の製造現場を見せていただく機会がありました。淡路は、線香の国内生産量のおよそ5割を占める一大生産地となっています。
淡路の線香製造には江戸末期から続く歴史があり、その原料となる香木については、日本書紀に「淡路島に“沈香”が流れ着いて朝廷に献上した」との記述もあるそうです。淡路の歴史の深さには感心することが多いです。
製造所は淡路市の旧一宮町に多く、私が訪れた江井地区では、かつては多くの住民が線香製造に携わっていたとのことでした。江井の町に入ると、町全体にそこはかとなく線香の香りが漂っています。環境省の「かおりの100選」にも選ばれているそうですが、地元の人は慣れてしまって町の香りは感じないと笑っておられました。
江井には栄えた港があり、原材料が船で運ばれてきたというアクセスの良さに加え、線香の製造過程で欠かせない乾燥に適した西風が吹いていることも、この地で線香づくりが盛んになった理由。この西風を上手に利用するために、製造所の2階、3階には“ベカコ”と呼ばれるスライド式の格子窓があり、天候や風の強弱などに応じて隙間を調節するそうです。
製造過程の多くは手作業で、原材料の“練り玉”に圧力をかけ、細い線香が押し出されてくる様子は、まるでところてんやパスタのようです。まだ柔らかい線香を端切りして長さを揃え、十分に乾燥させた後、束にする、そのそれぞれの過程で職人さんの技があるとのこと。ここでもその技の継承が課題のようでした。
線香の肝心要は、やはりその香り。それぞれの製造所に“香司”と呼ばれる香りのマイスターが居て、その香りの調合は秘伝になっているとのこと。原料は伝統的な香木に加え、近年では様々な香りの元が使われているそうです。香木は、漢方薬や料理のスパイスと共通するものも多く、同じ“白檀”でも原産地によって香りも価値も違うということも初めて知りました。
線香は仏様のごちそうであり、まっすぐに作られているのは精神の有り様を表したものとの説明も心に残りましたが、線香自体の需要は減少傾向にあります。一方で、香りを楽しみ、精神の安定、高揚などの効果を利用する文化は海外にもあり、特にフランスの方は、非常に興味をもたれるそうです。香りの良さ、バリエーションの多さを強みに、海外を含めた新市場に挑戦されているとのこと、心強く思います。
今でも見学を受け入れ、色々な体験ができる製造所もありますが、線香協同組合では、万博に向けて県が進める“フィールドパビリオン”として磨き上げ、多くの観光客を迎えたいとの意向も持たれています。是非、島外の皆さんも訪れて、その歴史と香りを楽しんで下さい。
令和5年3月1日
淡路県民局長 藤原 祥隆
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