更新日:2022年9月13日

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協働のための広報 兵庫県 広報ガイドライン Hyogo Public Relations Guidelines

 

職員座談会「広報。しんどさと、おもしろさと。」

広報戦略課では、2018年度より庁内のさまざまな部局から広報物制作の相談を受け、ときに伴走してきました。今日はこれまで相談に来てくださった部局から担当者4名と課長級1名にお集まりいただき、広報業務の現場の声を伺いました。

「3,650万円」、イベントで手にとってもらえる率が段違いに。

上原

2018年度から週1回の全庁広報会議がはじまって、たしか初っ端の会議で「IT企業誘致パンフレット」の制作を相談させてもらいました。どんな雰囲気でどんなことを言われるのかまったく読めないなか、恐る恐る。

竹谷 産業労働部は、伝統的にこういう機会に積極的なのか、「どんどん行ってこい」って感じだったんだよね。
上原 僕としても、自分たちの事業をしっかり伝える手法や考え方を学べたらなと。事業の先にいる「誰か」に届けるために作るはずの広報物が、ルーチン的に「作る」自体が目的になってしまっていた部分があって。その主従の逆さまも、会議で改めて指摘されてグサッときました。
竹谷 あの「3,650万円」の金額がドーンと出ているパンフレット、部内で「ええよええよ」って噂がすごく広まっていた。
上原 東京のイベントへの出展時、これまでにはないくらいに来場者さんが手に取ってくださって。「3,650万円ですか」と興味をもって話しかけてもらえたり、「こういう事業をやっています」と説明できたり。広報ってこういうことかと。こちらの思いが伝わって、後日連絡をくださった方もいました。
竹谷 「IT企業誘致パンフレット」の波を見て、うちの課も何かにつけて全庁広報会議に相談を持ち込みました。その結果、ある事業では民間の方々から「ホームページが見やすい」と高評価をいただいて、「より民間も参加しやすいように仕組みを整えていってほしい」とアドバイスまでもらったり。実現までに日はかかるかもしれないけれど、頭の片隅でずっと考えています。

「これじゃあ響かない」からの予期せぬ出発。

中山 私は最初は自分から相談に赴いたわけではないんですよ。「兵庫2030年の展望」を紹介する広報刊行物の発刊番号をもらいに行った先が広報戦略課で、そこで「この事業は、ぜひ広報官とディレクターに相談した方がいい」と呼び止められて。
—— いま、県庁見学に来た小学生に配る資料の一つにもなっているのですよね。
中山 当初は関係者向けの概要版資料くらいの位置づけを予定していたのですが、広報官に「県民こそ関係者。情報がたくさん溢れている今の世の中で、県民の方々の目に留まるものをしっかり作ろう」と言われたんです。初回の相談時を振り返ると、持参した案——数年前に当課でリーフレット化した「21世紀兵庫長期ビジョン」をリメイクしたもの——を広報官が「これじゃあ響かないよ」とバッサリ。
—— (一同笑)
中山 ビジョン課にも、まるきりの前例踏襲ではなく新しいアプローチもしていく認識はありましたが、まさかゼロベースになるとは想定外でした。「広報物はラブレター。誰から来たかわからないラブレターって気持ち悪いでしょ」「主体を出していきましょう」という新たな広報戦略に、その場で理解できたし納得もできたものの、そのときはまだ馴染みの薄い視点だったので、課に持ち帰ってコンセンサスを得るのが大変そうやなって思ったのを覚えています。
河本 僕も県職員の採用動画の制作を担当したときに、相談の場で「いまどういう動画が求められているか、当の大学生たちにヒアリングしてみたら」とアドバイスをもらって、そのときは「おもしろい、やってみよう」と思ったんですけど、職場に戻ると同時並行で抱えていたほかの業務——ちょうど採用試験だったかな——もあって、体力的に難しいなと。結局、入庁1年目2年目の職員にアンケートを取って、動画の長さやテイスト、骨子を詰めていきました。
中山

そうなんですよね。相談の場では理想的な話をするのだけど、職場に戻ると現実的な面が見えてくる。仕事量しかり。「兵庫2030年の展望」の場合は、このリーフレットとは別に、やはり審議会など関係者向けに従来の概要版も必要ということで、概要解説版と若者向けの2パターンを作ることに落ち着きました。若者向けのリーフレットには、展望について語る具体的な主体として、湯川さんとノゾミさん*のイラストを表紙から大きく登場させて。私はこのリーフレットが仕上がってすぐ異動になったのですが、ビジョン課の職員から後日談で「出前講座などで配布すると、おもしろそうに読んでくれているよ」と手応えも聞いています。(*中山さんをモデルにした架空のキャラクター)

同じ目線で対話をする ~兵庫2030年の展望 リーフレット~

正木 私は2018年度まで他県に出向していたのですが、兵庫県に戻ってきて広報戦略課に相談できる仕組みができていたのがすごくよかった。ああでもないこうでもないと自分だけで悩むのではなくて、チームのように一緒に最適解を模索して実現するまで伴走してくれる存在が、ありがたかったです。
中山 もし、出前講座や県庁見学で概要解説版を配っていたら、みなさん気軽にパラリと開いてくれなかったかもしれません。若者向けリーフレットも概要解説版も、内容としてはほとんど同じことが書いてあるんです。広報官の「読みものとしておもしろいことが、興味をもってもらう最初の接点として必要」の言葉が腑に落ちました。

自分の思いの丈をぶつける。正直しんどい、斬新なエントリーシート。

河本

逆に……ではないんですが、僕は最初は正直「相談に行ったら、広報戦略課が素敵なもの作ってくれるんや」と勘違いしていて。というのも、2018年度の担当者が全庁広報会議で相談して作った兵庫県職員募集のポスターがすごく好評やったんです。マスコミに取り上げられたり、受験者の学生さんから「本気で受験を考えていたときに、シックな感じが響いた」「自治体然としていなくて、かっこいいと思った」という声をいただいたり。それで2019年度、職員採用動画を担当することになって、相談に向かうためにエントリーシートを書こうと開いたら「え……」って。

昔を思い出す。~兵庫県職員募集 ポスター~

中山 わかります(笑)。
河本 「事業のゴールはどこか」「誰に向けて」「どうなったら幸せになりますか」って、普段から頭ではぼんやり描いていても、紙面に落とし込むとなると、どう表現したらいいものかと。ほら、僕らはいわゆる行政文書は書き慣れているじゃないですか。その真反対をいくような、自分の思いの丈をぶつける作文形式は面食らったというか……とても斬新でした。
竹谷 そうそう。あれは担当者本人に想いがないと書きづらい。というか、書けない。僕は広報官の「広報はラブレター」の喩えが好きなんです。エントリーシートの項目も全部ラブレターになるように練られたものと思っていて。
河本 たしかに。書きはじめるまですごく悩む反面、いざ筆を進めると「こうしてみたらおもしろいかもしれない」と湧いてくるのも不思議な体験でした。自分の思いを解放するゆえですかね。採用動画は数年前にも制作したものがあって、それは10名ほどの方がそれぞれのオフィスで業務の悦明をするのがメインだったんです。
上平 僕、その動画に出ましたよ。台本というか、事前に話す内容はあらかた決めて、撮影場所はオフィスで。
河本

2018年度からの「主体を出す」というあたらしい県の広報戦略を見ていて、今回は一方的な事業・業務の説明以外で県庁の仕事に興味を抱いてもらえる動画を作りたいと考えました。ただ、具体的にどんなかたちにしたら多くの学生が観てくれるか、響くのか。エントリーシートの段階ではなんとなくゴールは見えていたけど行きかたがわからない状態で、そこからディレクターにいろいろ道をつくっていただきました。

動画制作は「知らせる」から脱却する。

対庁内。対事業者。掘り下げ、すり合わせ、体現してもらう。

—— 実際、どのような伴走だったんでしょうか。
河本 まずはコンセプトの組み立てですね。1年目2年目の職員からとったアンケートの結果がそのまま骨子になってできていくんかなと思ったら、そもそも僕らがこの動画をどういう層に観てほしいか——ひとくちに学生といっても、すでに兵庫県に照準を合わせている学生か、ひろく公務員を志している学生か、民間も検討している学生か——の掘り下げから。最終的にできあがった動画のタイトルが「18人それぞれのイデア!」なのですが、業務内容ではなく「自身がこの仕事をして何を感じているか」を台本なしのナマの言葉で語ってもらうスタイルも、コンセプトの段階で一緒に掘り下げてもらった結果です。
—— 18人。調整は大変じゃなかったですか。
河本

人選については人事課と各部局総務担当課に協力いただき、ディレクターも交えてかなり長い時間をかけて調整しました。アンケート結果から学生は職業観として自治体の仕事に「正しさ」を求めていることがわかったので、では映像としてどういうシーンがあるとそれが届くだろうかと。でも、わかりやすさだけでもダメで。例えば事務職と比べて技術職はいわゆる「映える」シーンが撮りやすいのですが、事業の現場から、恣意的に具体的な仕事の一部分だけを切り取って提示することを懸念されたこともありました。観た人の理解に歪みが生じないだろうかと。そこはもう、先方のリクエストも汲みつつ、こちらのコンセプトを共有して理解していただきつつ、うまく間を取っていくしかなくて。

上平 (動画を観ながら)台本がないからか、みなさんの気持ちが乗った肉声というか、言葉が自然にスッと耳に入ってきますね。カットの切り替えのテンポもいいし。説明している印象を受けない。
河本 ここに行き着くまでに、動画制作の事業者さんにはかなりブラッシュアップしてもらいました。先方にうまく気持ちよく修正を重ねてもらったり、あとは上司への説明——業務の説明をせずに採用動画として成り立つのかとの懸念もあって——の場面でも、僕ひとりの言葉ではいまいち説得力がないけれど、ディレクターの言葉を借りて納得感を得られたり。本来であれば、自分たちでやらないといけないのですが……。
正木

そうですね。私が最初に相談に行ったのは「あいたい兵庫」キャンペーンの関係でした。観光振興課は補助的な立ち位置で、所管はひょうご観光本部。それぞれの組織と外部の事業者さんと調整しながら広報物も制作しています。そうやってステークホルダーが多くなったときに、自分の意見をゴリ押しするのではなく、自分が納得せずに周囲の意見に委ねるわけでもなく、自分も周囲も納得したものを出そうとするとすごく時間がかかる。それは、目に見えない時間で。

「パンフレット」 パンフレットはチラシと違う役割を意識する。

—— 目に見えない時間とは。
正木 例えばデザインって、みなさんも経験されてきたと思うんですけど、手が動かない、考えを練っている時間の方が多かったりしますよね。まわりから見ると何も作業が進んでなかったり、ウーンと悩んで光が見えたり見えなかったり。でも、そういう時間がじつは一番重要なんかなと思います。想いを伝える素地をつくって、共有して、育てて。
中山 県の仕事を何年も請けてこられた事業者さんだと、従来の最適解をノウハウとしてお持ちだから、ギャップに戸惑われますよね。私は今年度、丹波県民局に異動して、もう7年続いている「丹波栗食べ歩きフェア」のマップ制作を担当しました。今までのA4サイズのパンフレット——そんな大きな冊子は持ち歩きにくいので——を蛇腹式のハンドブックに変えることまではできたんですが、デザイン的な見せかたや読みものとしてのおもしろさの部分で、すり合わせがうまくできなくて。来年度の課題です。
正木 まさに。私は、事業者さんと相対するときに、役割分担として少なくとも2人は必要だと感じていて。ひとりは、僕らのような、完成まで関係性を保ちながら事業者さんのパートナーを務める担当者。もうひとりは、意見がすり合わないときや、制作物のクオリティなどで頓挫しかけたときに、あえて関係性を度外視で言うことは言う。現状は、広報官やディレクターがその部分を担ってくれていて、しかも素人の見解ではないので、先方も理解してくださるんです。ただ、本来は我々がやるべきことなんですよね。

課長を味方に巻き込め。広報のおもしろさ。

竹谷 そういう場面に備えるためにも、あらかじめ課長と想いやコンセプト、方向性を共有しておくことは、すごく大事だと思います。ディレクターにお世話になって当課でインタビュー冊子を制作した際も、事業者さんがインタビューに行って、彼らにも意図はあるから、ラフとして上がってきたものがこちらの想いとするところとズレていて。話し合うんだけども、なかなか折り合いがつかない。担当者としては残りの道のりもあるから全面衝突は避けたいとなったときに、上司が担当者の想いを引き受けて、責任者として対峙しないといけないと思うわけです。広報官やディレクターも四六時中事業者さんのお相手はできないので。
正木

広報戦略課に相談する場合は、課としてエントリーシートを提出するから、その段階で課長と協議しますもんね。

竹谷 担当者も、そこで課長のツボや、課長が何を気にしているかもだいたいわかると思うんですよね。方針がガラッと変わる時——相談するとだいたいガラッといくので(笑)——なんかは報告してほしいけれど、「ここはあまり気にしていないな」というところはどんどん進めてくれていい。おおよそ内部で頓挫するのは、担当者が課長のツボを外したときですよね。「聞いてないぞ」と。そうなる前に、どんどん課長を味方に巻き込んでほしいと思っています。
上平

正木さんがされている観光はもともと広報と親和性が高いだろうし、僕が所属する新産業課は、課の性格からして新しいことをやって当たり前な雰囲気があるんですね。だから「自分が誰に何を届けたいか」を前面に出すあたらしい広報のかたちで事業を積み上げて展開していくのが、中身としてしんどいけれど、わりとスムーズに進められるというのはあると思うんです。やらないといけない業務をただこなすのではなくて、いま話しているのは広報という切り口ですが、事業をしていくうえで課題は必ずあるからそれをクリアしていく充実感。

竹谷 「主体を出す」というのは、これまで兵庫県が抱えてきた総花的な文化の真逆ですよね。ターゲットにしても、Aさん、Bさん、Cさん、すべての人にあてて内容を提示しないと、広報しないと、という風潮が根づいている。時代は明らかに個人が情報発信の主体にる局面に入っているのに、追いきれないで手をこまねている状況があると思う。担当者にしても、僕らにしても。これまでの考え方を理解することは必要だけれど、よりよいものにしていくチャレンジングな気持ちはすごく大切なんじゃないかと。広報戦略課は突破口になると感じています。僕らがひとつひとつの事業に広報課やディレクターを巻き込んで、「誰に何を届けたいのか」をドーンと乗っけたものを作り、総花的文化に切り込んでいく。次に、それを傍目に見ていた人たちが「なるほどね」と切り口を広げていく。いま、文化の端境期に僕らは身を置いているんだろうと思います。
河本 採用試験の受験者アンケートに職員募集ポスターの感想を聞く自由記入欄を設けていて、だいたいは空欄で返ってくるんですけど、たまに「響きました」「よかったです」と書き込んでくれているのを見ると、やっぱりやってよかったなと思います。現場にいる対象の人たちからのフィードバックを積み重ねていけば、データとしての納得性を帯びて文化が変わるきっかけにもなるのかなって。
竹谷 県の仕事って一般的にやって当たり前というか、いわゆる減点事業と呼ばれるものも多いじゃないですか。そのなかで、広報は加点事業やと思うんです。工夫することで現場の反応も体感できる。そこにいくまではいろんな人を巻きこんでしんどいことも多いですけど。僕が課で取り組んでいても、充実感が大きくておもしろいんですよね。広報を大事にして事業に取り組むことが。
河本 広報ってやってはいけないことが少ないというか、やれば何かしらのレスポンスが返ってくるので。例えば、僕らは学生向けに説明会をするのですが、このパワーポイントのスライドだって変えてええんちゃうかなと。ひとつ成功例を得られると、あれもこれもと応用が効くようになるのもクセになりますよね。
中山 私がもともと県を受けようと思ったのも、兵庫県のよさをもっと伝えられたらいいなというのがきっかけだったのを思い出しました、今。